第6話 石ひよりは、なぜ桐生くんを信じたのか
正直に言うと――
最初は、ただの「競馬できる人」だと思ってた。
バイト先に来た新人、桐生こういち。
見た目は普通。
愛想も、まあ普通。
なのに。
(この人、変だな)
それが第一印象。
*
競馬の話をするとき、
桐生くんは絶対に熱くならない。
勝っても、ふーんって顔。
負けても、まあ仕方ないですね、で終わり。
(いやいや、競馬ってもっと感情出るでしょ)
私は、外れたら悔しいし、
当たったら普通にテンション上がる。
でも桐生くんは違った。
まるで――
結果よりも、過程を見てるみたいな目。
*
競馬場で一緒に賭けたときもそう。
「今日は無理しない方がいいです」
その一言を、
あんなに迷いなく言える人、初めてだった。
だって競馬場って、
「もう一レース!」
「次で取り返す!」
って空気で満ちてる。
それに流されないのって、
実はすごく難しい。
(この人、競馬に飲まれてない)
それが、私には新鮮だった。
*
重賞の日。
「大きくは勝てません」
普通ならガッカリする言葉。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
むしろ――
(あ、この人、ちゃんと私のこと考えてる)
そう思った。
自分だけ勝てればいい人じゃない。
一緒に賭ける相手の気持ちも、ちゃんと見てる。
*
レースが当たったとき。
桐生くんは、
ガッツポーズもしなければ、叫びもしなかった。
ただ、静かに言った。
「当たりです」
その声が、
なんだかすごく安心できて。
(ああ……)
この人となら。
勝っても、
負けても。
たぶん、
競馬を嫌いにならずに済む。
*
だから私は、決めた。
「桐生くんがそう言うなら、従う」
それは丸投げじゃない。
信頼して、一緒に選ぶってこと。
*
バイト帰り。
前を歩く桐生くんの背中を見る。
(この人、何者なんだろ)
予想が当たる理由も、
落ち着いている理由も、
全部は分からない。
でも――
(今は、知らなくていいかな)
白石ひよりは、
今日も桐生くんを信じて、
次のレースを楽しみにしている。
それだけで、十分だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます