第4話 この人となら負けても良いと思った
バイト終わりのファミレス。
俺――桐生こういちは、ドリンクバーの前でひよりと並んでいた。
「桐生くんさ」
氷を入れながら、ひよりがぽつりと言う。
「この前の競馬、楽しかった」
「それはよかったです」
「ううん、ただ楽しいだけじゃなくて」
少しだけ、言葉を探す間があった。
「……安心したんだよね」
「安心?」
「うん。勝っても浮かれないし、外しても不機嫌にならないし」
確かに、前世の俺はその真逆だった。
「競馬ってさ」
ひよりはカップを置いて、俺の方を見る。
「一緒にやる人で、全然違うんだなって思った」
「……それは、分かります」
ギャンブルは、感情が出る。
だからこそ、人が見える。
*
帰り道。
「ねえ、桐生くん」
「なんです?」
「私さ」
少し照れたように笑う。
「今まで競馬、ずっと一人だったんだ」
意外だった。
「誰かと話すと、
『女の子なのに』とか言われるし」
「……あるあるですね」
「でしょ?」
ひよりは肩をすくめる。
「だからさ」
立ち止まって、俺を見る。
「桐生くんと一緒なら、
負けてもいいかなって思った」
胸の奥が、少しだけざわついた。
(それは……信頼、だよな)
「……それは、言いすぎです」
「えー、素直じゃない!」
笑いながら、ひよりは俺の腕に軽く触れる。
近い。
でも、嫌じゃない。
*
その日から。
ひよりは、レース前に必ず聞くようになった。
「桐生くん、どう思う?」
俺は答える。
教科書通り、無理をしない範囲で。
「今日は見送りもアリです」
「おっけー」
その返事に、迷いはない。
(……完全に任されてるな)
責任は感じる。
だが同時に――
(信頼されるの、悪くない)
*
日曜の夕方。
「ね、今度は重賞行こ?」
「いきなりですね」
「大丈夫。無茶しないの、分かってるから」
その言葉が、妙に重かった。
桐生こういちは思う。
競馬は、当てるだけの遊びじゃない。
誰と、どんな気持ちで向き合うかだ。
そして今、
白石ひよりは、俺を信じて馬券を買っている。
それは――
前世では一度も手に入らなかった感覚だった。
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