第3話:競馬場デートは、落ち着いて賭ければいい
日曜の朝。
俺――桐生こういちは、競馬場の入場ゲート前に立っていた。
「相変わらず人多いな……」
「それがいいんじゃん!」
隣で元気に言うのは、白石ひより。
私服なのにやたら目立つのは、まあ……うん、仕方ない。
「今日はどうするの?」
「午前中は様子見。レース傾向を確認してから」
「え、ガチ勢の発言だ」
ひよりは楽しそうに笑う。
*
パドック。
馬の歩様、気配、発汗。
前世で叩き込まれた知識が、自然と頭の中で整理される。
(この馬は良い。
人気してるけど、今日は信用できる)
未来を「思い出す」というより、
知っている競馬をもう一度なぞっている感覚に近い。
「ひよりは?」
「私はねー、これ!」
指差したのは中穴馬。
「理由は?」
「今日は前残りになりそうだから」
「……ちゃんと考えてますね」
「でしょ?」
少しだけ得意げだ。
「じゃあ俺は、この人気馬から」
「堅実だねー」
「それが一番勝率高いですから」
*
レース。
『直線に向いた――!』
隊列は想定通り。
逃げ馬が粘り、内を突いた馬が伸びる。
「来る、来る……」
ひよりが腕を掴む。
「ちょ、近い」
「今それどころじゃない!」
ゴール。
掲示板に映る着順。
「……当たり!」
「ワイド的中だ!」
ひよりが飛び跳ねる。
「やったー! 今日ついてる!」
「展開通りですね」
俺は静かに払い戻し金額を確認する。
大きくはない。
でも、確実にプラス。
(よし。問題なし)
*
次のレースも、その次も。
大きな波乱は起きない。
俺は無理をせず、
知識通り、教科書通りに馬券を組み立てる。
「桐生くんさ」
ベンチで休憩中、ひよりが言った。
「なんか安心感あるよね」
「そうですか?」
「うん。勝っても負けても、慌てない感じ」
……それは、前世で散々痛い目を見たからだ。
「競馬は、続けるものですから」
「かっこいー」
軽いノリの言葉だったが、
なぜか少しだけ胸に残った。
*
夕方。
収支は、きっちりプラス。
ひよりも満足そうだ。
「ね、また一緒に来よ?」
「……タイミング合えば」
「やった!」
こうして俺は確信した。
未来はズレない。
無理をしなければ、知識は裏切らない。
問題があるとすれば――
(人との距離感、か……)
競馬場を後にしながら、
俺は次のレースよりも、
少しだけ先の人間関係を考えていた。
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