第3話:競馬場デートは、落ち着いて賭ければいい

日曜の朝。

 俺――桐生こういちは、競馬場の入場ゲート前に立っていた。


「相変わらず人多いな……」


「それがいいんじゃん!」


 隣で元気に言うのは、白石ひより。

 私服なのにやたら目立つのは、まあ……うん、仕方ない。


「今日はどうするの?」


「午前中は様子見。レース傾向を確認してから」


「え、ガチ勢の発言だ」


 ひよりは楽しそうに笑う。



 パドック。


 馬の歩様、気配、発汗。

 前世で叩き込まれた知識が、自然と頭の中で整理される。


(この馬は良い。

 人気してるけど、今日は信用できる)


 未来を「思い出す」というより、

 知っている競馬をもう一度なぞっている感覚に近い。


「ひよりは?」


「私はねー、これ!」


 指差したのは中穴馬。


「理由は?」


「今日は前残りになりそうだから」


「……ちゃんと考えてますね」


「でしょ?」


 少しだけ得意げだ。


「じゃあ俺は、この人気馬から」


「堅実だねー」


「それが一番勝率高いですから」



 レース。


『直線に向いた――!』


 隊列は想定通り。

 逃げ馬が粘り、内を突いた馬が伸びる。


「来る、来る……」


 ひよりが腕を掴む。


「ちょ、近い」


「今それどころじゃない!」


 ゴール。


 掲示板に映る着順。


「……当たり!」


「ワイド的中だ!」


 ひよりが飛び跳ねる。


「やったー! 今日ついてる!」


「展開通りですね」


 俺は静かに払い戻し金額を確認する。

 大きくはない。

 でも、確実にプラス。


(よし。問題なし)



 次のレースも、その次も。

 大きな波乱は起きない。


 俺は無理をせず、

 知識通り、教科書通りに馬券を組み立てる。


「桐生くんさ」


 ベンチで休憩中、ひよりが言った。


「なんか安心感あるよね」


「そうですか?」


「うん。勝っても負けても、慌てない感じ」


 ……それは、前世で散々痛い目を見たからだ。


「競馬は、続けるものですから」


「かっこいー」


 軽いノリの言葉だったが、

 なぜか少しだけ胸に残った。



 夕方。


 収支は、きっちりプラス。

 ひよりも満足そうだ。


「ね、また一緒に来よ?」


「……タイミング合えば」


「やった!」


 こうして俺は確信した。


 未来はズレない。

 無理をしなければ、知識は裏切らない。


 問題があるとすれば――


(人との距離感、か……)


 競馬場を後にしながら、

 俺は次のレースよりも、

 少しだけ先の人間関係を考えていた。

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