4話 仕返し

 軛坂に連れられて来た場所は、校舎の端にある映画部の部室だった。

部員が一人で殆ど使われないからか窓がカーテンで閉め切られ、うっすらと埃が舞っている。使われていたであろうカメラの三脚やマイクなどの機材が雑に床に転がっていた。


「部員が三人以下になると廃部勧告が出るんですよね。文芸部は大丈夫ですか?」


機材を隅へと押しのけながら、軛坂は私が歩きやすいよう道を作っていく。


「いや……。このままじゃ不味い」


でも私はそれで良い気がしていた。自分は、上手く書けないから。


部室の奥には、埃まみれのプロジェクターと畳まれたスクリーンがあった。

軛坂はスクリーンを開き、そこへ映像を投射し始める。クッションを用意してくれたから、二人で座ってぼーっと流れ始めた映像を見つめた。そして気付かない内に、映像は終わっていた。


吸血鬼がサンタクロースとして街へ飛び出し、熱さが苦手故におでんの具を食べて死に至る。という感じの話、だったと思う。理解が出来ないまま最後まで駆け抜けられてしまった。


「どうでしたか?」


彼女の元気な声が、今にも死にそうなこの部屋を震わせる。


「……」


軛坂の映画は、正直に言って全く理解出来なかった。

私が言われてきた感想と、同じ事を思い抱いた。

軛坂は言っていた。「自分に心があると証明して」と。

なら、自分の作品を否定されれば流石に反応するんじゃないだろうか。


私だって、辛かったから。


「あの、よく分からなかったんだけど」


いつも物怖じもせずデリカシーも無い彼女に少しの仕返しを込め、正直に呟く。正直を望むのなら、正直に言ってやる。すると隣でクッションを抱いて映像を見ていた軛坂の顔が、一瞬口角を上げたまま固まっていた。


「そうなんですよね、私の映画もよくそんな事を思われてたみたいなんですよ。ちょっとキツイですよねー」


それは、いつもの軛坂と違って、空回りした元気のように見えた。心なしか、言葉が貼り付けられた空虚な物に聞こえてくる。


「あはは……。正直に言葉で言われると、やっぱり結構効くんですね」

「なんか、大丈夫?」


想像以上に軛坂の態度が乱れ始めて来ている気がする。


「私、友達に自分が作った物を見て貰うのは初めてなんです。だから、でしょうか……」


乾いた笑いが、彼女の口から漏れる。


「駄目ですね、私。正論ってこんなに痛くて……」

「軛坂……?」


いつも嫌に輝いていた軛坂の瞳が、完全に伏せられていた。


「やっぱり私、ちゃんと気を遣って貰ってただけなんですね」


多分、軛坂は分かってしまった。

彼女は先輩にたっぷり褒められて育ったと語っていた。


だけど私と同じで、自分の映画の事について「気を遣って貰っていた」という事を。彼女が嫌っていた、事だ。


「あ……」


心が読めないせいで、自分を守る為に軛坂には厳しく当たってしまう。

酷い事をしたのは、きっと私だってそうだ。

軛坂には、ちゃんと心があった。

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