第4話
ルミアは自室の三段ベッドの一番上に寝転ころんで、天井を見つめていた。ベッドは堅く、少しでも寝返りをうてばキシキシと音を立てる。毎日うんざりしていたが、今日はそんなことを思う心の余裕はなかった。
できるのか、自分に。
怖かった。死ぬかもしれない、ということより、殺さなくてはならない、ということが。
目を瞑ると、まだ戦ったことすらない敵兵の姿が勝手に脳裏に浮かぶ。そしてその敵兵の苦しむ顔。悲しむ家族の姿。
吐き気が込み上げた。
ダメだ……こんな状態じゃ……
「眠れないの?」
ベッドの端から顔だけ覗かせて声をかけてきたのは、同室のエルルだった。
「うん……」
ルミアが呻くように小さく言う。
「ルミア、西側の前線配置だもんね。怖いよね……」
「うん……」
「殺すほうが怖いんだろ」
そう言ってきたのは、三段ベッドの一番下のリューシェだ。
「うん」
「だと思ったよ。あんた優しいからね。私は殺すことに抵抗はないけどさ、死ぬのが怖い」
リューシェはルミアと同じく、珍しい女性戦闘員で、東側の前線配置だった。連合軍では、帝国に対して圧倒的に人員が不足している。戦士として優秀であれば、女性であろうが関係なく前線に配置された。
エルルは、支援舞台として戦場には来るが、本拠地待機となる。それについてルミアもリューシェも不満はない。人には向き不向きがあるから当然だ。
だけどエルルは、いつも謝っていた。
「ごめんね……2人にばかり辛い思いをさせて」
「だから何度も言ってるだろ。もうそれはやめろ。あんたのせいでもなんでもないんだ」
リューシェが語気を強めて言う。エルルは、苦笑いするように目を細めた。
同期の女子3人を同室にしてもらえたのはありがたかった。プライバシーも何もない軍隊の中で、ルミアにとって自室は心休まる空間だった。たとえ8畳一間の雑魚部屋であっても。
気付けば自然と、3人でリューシェのベッドに横並びで座っていた。
「ルミア」
リューシェがグータッチを求めてきた。
「絶対生き残るよ。あんたはその優しささえ捨てれば誰よりも強い。知ってるよ。あんた、きっとリトにだって負けないはずだ」
「そんなわけないでしょ」
ルミアがグータッチを返して、笑いながら否定する。
「リト君。今日かっこよかったね……」
脈絡なく、エルルが思い出に耽るように頬を赤らめて言う。
リューシェの白けた視線に気づいたのか、エルルは慌てて手を振った。
「ごめん、なんでもない!」
「別にいいけど。でもエルル、リトは無理でしょ。どう考えてもあいつはルミア一筋だ」
今度はルミアの顔が一気に赤く染まる。
「そんなわけないでしょ!」
「そうよリューシェ。2人は幼なじみなだけ。そりゃ特別な関係だろうけど、兄妹みたいなものでしょ。ねえルミア?」
「おまえリトのことになると一気に性格悪くなるなぁ」
3人のかしましい声が廊下に響く。
願わくば、この時間がずっと続いてほしい。ルミアは思った。
だけど心の奥で、そんなわけはないと、理解もしていた。
ルミアと永久の塔 ハッチ @LumiaTower
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