第8話 テンペスト、一なる存在、一人にて星人を名乗る。
敗因分析報告書
――テンペスト星人・最終記録――
我々が地球を観測対象に戻したのは、誤差の検出がきっかけだった。
銀河標準暦において、あの惑星はすでに二度、文明崩壊の臨界点を越えている。
それにもかかわらず、文化圏は連続性を保ち、局所的な霊的エネルギーは増加していた。
あり得ない現象だ。
我々テンペスト星人は、管理と回収を役目とする。
世界は「使い切られた時点」で閉じる。
それが宇宙の健全性だ。
だが、地球には閉じない領域が存在した。
観測点は、極東の山脈――摩耶山。
座標上は取るに足らない。
だが、そこから派生する複数の建造物が、同一地点に重なって存在していた。
中川邸。
水木荘。
水木湯。
我々はそれを「重複エラー」と判断した。
侵略は、その修正作業にすぎなかった。
だが、侵攻計画の策定段階で、すでに最初の誤りを犯していた。
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第一の誤算:支配者が存在しない
地球には王がいない。
神もいない。
あるのは、役割だけだ。
妖怪組合と呼ばれる存在群を解析した際、我々は彼らを「旧式の土着神格」
と分類した。
力はあるが、統率は弱い。
必ず“上位者”がいるはずだと。
だが、実際には違った。
彼らは、誰一人として世界の所有者ではなかった。
所有しない者は、奪われない。
これは、我々の文明が理解できない概念だった。
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第二の誤算:封印を“拘束”と誤認した
我々は九尾の狐――白川珠緒を、封印された危険因子と判断した。
外界に出せば災厄。
だから閉じ込められている。
そう分析した。
だが、侵攻直前、記録を洗い直して気づいた。
彼女は「閉じられている」のではない。
閉じることを選んでいる。
封印とは、弱者の処置ではない。
力を使わないという、意思表示だった。
我々は、力を持ちながら使わぬ存在を、評価体系に持たない。
その時点で、彼女を理解する資格を失っていた。
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第三の誤算:個人を“資源”として見た
善之。
侵略計画では、彼は単なる媒介体だった。
境界に立つ人間。
回収対象の補助装置。
だが、接触した瞬間、私は理解した。
彼は、どこにも属していない。
妖怪でも、人間でも、管理者でもない。
それでいて、全てが彼を基準に位置を決めている。
彼の怒り――レイジは、破壊衝動ではなかった。
「ここを失いたくない」
ただ、それだけだ。
我々は数多の文明を滅ぼしてきた。
だが、どの世界も、最後に見せるのは恐怖か絶望だった。
怒りだけで、しかも奪われる未来に向けた怒りは、初めてだった。
それは、侵略に対する最悪の感情だ。
第四の誤算:帳簿の存在
文子。
彼女の帳簿は、武器ではない。
呪具でもない。
だが、そこには物語の連続性が記されていた。
誰が来て、誰が去り、
誰が死に、誰が死ななかったか。
我々は履歴を管理する。
だが、意味を保存しない。
帳簿を前にした瞬間、私は理解した。
この地は、すでに“語られている”。
語られ続ける場所は、終わらない。
結論
地球侵略計画は中止。
敗因は以下の通り。
• 所有を前提とした文明モデルの限界
• 力の行使を前提とした評価体系の欠陥
• 「選ばない強さ」を理解できなかったこと
• 物語を、データと誤認したこと
最後に、個人的な記録を残す。
あの場で、白い猫が二匹に見えた。
記録上、一匹しか存在しないはずだった。
だが、私は知っている。
世界が終わらない理由は、
死んだ者が、完全には去らないからだ。
だから、我々は負けた。
次に地球を観測するのは、
おそらく、ずっと先になるだろう。
――テンペスト星人 我は一人、一人にて種族
最終侵略記録・終端
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