第9話 宇宙人が観測されない理由 (グレイの場合)

弁明書


――摩耶山時空供給事案について――


我らグレイは、侵略者ではない。

少なくとも、この地においては。


摩耶山は特異点だった。

人類の暦で言えば、太古より現在に至るまで、

この山は常に「境界が薄い」。


死と生、過去と未来、物語と現実。

それらが混線する地点。


我々はそれを補修していた。


長年、摩耶山に時空エネルギーを供給してきたのは事実だ。

だが、それは支配のためではない。


――崩壊を防ぐためだ。



なぜ摩耶山だったのか


地球には、文明が自壊するたびに

「語られ残る場所」が生まれる。


摩耶山は、その最古級の一つだ。


妖怪、亡霊、信仰、怪談、戦争、災害。

それらが堆積し、なお消えずに残った。


本来なら、銀河規格では封鎖対象。

だが、我々は判断を保留した。


理由は単純だ。


この場所は、

世界を終わらせないための“逃げ道”になっている。


逃げ道を塞げば、世界は破裂する。


だから我々は、

摩耶山を温存し、

エネルギーを流し続けた。



敗北について


正月、摩耶山。


あの敗北は、軍事的失策ではない。

判断ミスだ。


我々は「敵対行動」を想定していた。

だが、実際に起きたのは――

• 温泉

• 餅

• 甘酒

• 何も問わない挨拶

• 「まあ、入っていきな」


これは戦争ではない。


懐柔だ。


しかも、極めて質の悪い。


我々グレイは、

感情を“不要なノイズ”として排除してきた。


だが、

身体を温め、

警戒を解き、

役割を一時停止させる行為は――


感情ではなく、状態の書き換えだった。


気づいた時には、

我々は「観測者」ではなく、

客になっていた。



極悪宇宙人連合につけ込まれた理由


敗北後、我々は中立を保つべきだった。


だが、

「敵でない」

「追い返されない」

「役割を一度降ろしていい」


その状態は、

長年“管理者”であり続けた我々には、

あまりにも危険だった。


極悪連合はそこを突いた。


「君たちは居場所を失っている」

「こちらに来れば、役割がある」


それは甘言だ。

だが、正直に言おう。


一部の個体は、役割を欲した。


摩耶山では、

誰も我々を必要としなかった。


ただ、

「居ていい」と言われただけだ。


それに耐えられない個体が、

極悪連合に流れた。


これは、指導者としての私の責任だ。



それでも弁明するなら


我々は、裏切ったのではない。


我々は、

役割を誤認した。


摩耶山は、

時空エネルギーを必要としていなかった。


必要だったのは、

「続いている」という事実だけだった。


供給していたつもりが、

すでに不要だったのだ。


それを認められなかった。



結語


極悪連合に加担したグレイ個体について、

私は処分を下す資格を失った。


彼らは、

敗北したのではない。

居場所を失っただけだ。


摩耶山は今も続いている。


温泉は湧き、

妖怪は黙り、

人は新年を迎える。


我々の時空供給が止まっても。


それが、

我々の最大の敗北であり、

同時に、

この星の勝利だ。


――摩耶山管区

時空供給監督個体・グレイ長

最終弁明記録

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