第7話 宇宙最大の侵略
極悪宇宙人連合 × 妖怪組合
――摩耶山・中川邸決戦録――
それは、正月三日の未明だった。
摩耶山の尾根を渡る風が、普段よりも低く、重たく唸っていた夜である。
中川邸の大浴場では、すでに湯が落とされ、湯気の代わりに冷たい霧が
床を這っていた。
その奥、宴会場の大広間に、妖怪組合の重鎮たちが円座を組んでいた。
善之は中央に立っていた。
――いや、正確には「立たされていた」。
彼自身、なぜここにいるのか、完全には理解していない。
ただ、世界が歪む瞬間には、必ず自分が呼ばれる。それだけは知っていた。
遠野小雪は一歩下がった位置で、杖を床に突いている。
老婆の姿だが、視線だけは鋭く、空間の裂け目を見据えていた。
鈴木八咫は前に出ない。
陰陽道の北斗にて蔵馬寺の筆頭僧、鴉天狗
サングラスの奥で、黙って気配だけを張り付かせている。
彼は戦わない。だが、逃がさない。
文子は帳簿を閉じ、静かに言った。
「来るよ。数が多い」
その瞬間だった。
大広間の天井が、内側から剥がれ落ちるように割れた。
火と硫黄の臭い。
そして、空間の奥から現れたのは――極悪宇宙人連合。
王座に座る黒鉄の支配者。
その周囲に立つ、獣、昆虫、岩石、屍の骸骨ような者たち。暗黒四天王
二体一組の白い鸚鵡(オウム)のような異形は、まるで影のように揺れていた。
「地球の管理権を回収する」
その声は、言語ではなかった。
だが、意味だけが脳に直接流れ込んできた。
「この地は、契約違反だ」
妖怪組合が動いた。
女郎蜘蛛――いや、蜘蛛女王が、ゆっくりと立ち上がる。
その糸はまだ張られない。ただ、存在するだけで空気が粘つく。
「契約を語るなら、まず帳面を見な」
文車妖妃の文子が帳簿を開く。
その紙面には、人間と妖怪と、この土地に縛られた“何か”の履歴が刻まれていた。
「中川邸、水木荘、水木湯。
ここは“境界”だ。宇宙連合の管轄じゃない」
漆黒の巨大化な炎のような宇宙人の王が、初めて玉座から身を乗り出した。
「ならば、証を出せ」
その瞬間、善之の胸が焼けるように痛んだ。
レイジ――憤怒。
彼の中で、何かが目を覚ました。
怒りは、宇宙人に向いていない。
妖怪にでもない。
「奪われる」
その未来そのものに対する、純粋な拒絶だった。
床が割れ、善之の影が巨大化する。
だが、彼は武器を取らない。
「ここは、帰る場所だ」
ただ、それだけを言った。
すると、白川珠緒――九尾の狐御前が、一歩だけ前に出た。
あくまで列の内側、世界を壊さぬ距離で。
「この地は封印だ」
「そして、封印とは“選択”だ」
彼女の言葉に、宇宙人たちの動きが止まる。
「お前たちは、管理する」
「私たちは、抱える」
その差が、決定的だった。
蜘蛛女王が糸を張る。
八咫の気配が空間を塞ぐ。
小雪が杖を鳴らす。
そして――
宇宙の裂け目が、閉じた。
音はなかった。
ただ、最初から何もなかったかのように、夜が戻った。
しばらく、誰も動かなかった。
やがて、善之が言う。
「……終わったのか?」
小雪は微笑まない。
「いいえ。保留よ」
そのとき、善之の足元で、白い影が動いた。
白猫――ジュニア。
彼は振り返った瞬間、気づいた。
猫の影が、二つある。
あるか、あるいはないかは観測しなければ定まらない箱の中の猫
ひとつは今ここにいる。
もうひとつは――どこか遠く、世界樹の方角へ伸びている。
その夜、佐々木望の名は、正式に「死者」として処理された。
だが、善之だけは知っている。
死んだのは、体だけだ。
魂は、まだどこかで、
この世界を見ている。
だからこそ、
次に扉が叩かれるとき、
また善之は呼ばれるだろう。
それが、
境界に立つ者の役目なのだから。
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