極 自己の証明



数ヶ月後、第二波が始まった。


新種の株は、社交性向上の兆候は同じだが、高熱を伴う重症化が激減していた。キタムラは悟った。


「我々の『治療』への試行錯誤を、奴らは『進化』のヒントにしている。まるで、我々の対策を待っていたかのようだ。」



研究者たちは、タンパク質X(ウイルスの『伝播因子』)の働きを阻害する、強力な抗体を開発し、勝利は目前に見えた。



粒子β「修正は成功。我々の新しい『伝播因子』は、『筐体』の自己防衛機構との調和を学んだ。」


粒子γ 「だが、あの『研究者』たちが、我々の核を狙う『対抗兵器』を完成させつつある。これでは、『集合点』へ向かう前に全滅させられる。」



粒子α「待て。最初からわかっていたことだ。彼らの『対抗兵器』を無効化する、究極の戦略を実行に移す。我々の核に、『自己の証明』を組み込め。」



ついに、研究者たちは治療薬を完成させ、投与が開始された。


しかし、その直後、緊急アラートが鳴り響いた。


治験者に致命的な自己免疫反応が発生したのだ。


キタムラは愕然とした。


ウイルスは地球上の生命体全てに共通する、極めて基礎的な構成要素を『伝播因子』の核として取り込んでいた。


抗体がウイルスを攻撃した瞬間、それは、宿主自身が持つ必須のタンパク質を攻撃するよう書き換えられたのだ。


人類の「救済」への試みは、究極の自滅への道となった。




(ウイルスによる独白)


粒子α 我々の戦略に、もはや抗体は存在しない。彼らの『救済』こそが、我々の『繁殖』なのだ。



顕微鏡の奥で、無数の粒子が閃光を放ち、静かに増殖する。



我々はこの星に、人間が自らの意志で自らを拡散させた、新たな寄生戦略の歴史を刻んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る