三、違い






 二十一時。三人でタクシーに乗って着いたのは、山奥にある廃屋だった。

 コンクリートのむき出しの部分が見えるので病院か何かの施設だったのだろうか。

 吐き出した息が月明かりに白く浮き上がる。十一月の夜は寒い。

 璃子の両手をこすり合わせる。毛糸のもこもこの手袋はミヤコに渡されたものだった。

 エンゲツ堂を出るにあたって、コートを着た璃子のもとにミヤコがいっぱい防寒具を持ってきたのだ。

 耳当てに手袋とマフラーとホッカイロ。元々寒がりなのでありがたくはあるのだが、過剰すぎてちょっと引いた。

 全部身に着けているのに、「寒かったり具合悪かったらちゃんと言ってくださいね、いや、思うだけでいいか、ちゃんと気づくから」だの「本当に寒くないかな? 山だからあったかいお茶持って行った方がいいか」と、ずーっとバタバタしているので、途中イナサが「過保護!」と大声で割り込んできたので若干時間を押しながら出発に至った。


 璃子は一連の流れを見て、ミナやイナサの言う、ヤンデレ製造機やら女誑しだの言われている片鱗が伺い知れた気がした。顔が整っていて表向きは爽やか好青年風の男性にこんなに過保護に世話を焼かれてしまったら傷心の女性は依存してしまうだろうな、と。

 これは確かにちょっと早めにここを出た方がいいな、と冷静に決意した。


「別に過剰じゃないと思うけどなぁ」

 

 真後ろからそう投げかけられて振り返ると、不本意といった顔のミヤコがこちらを見下ろしていた。


「だって弱っているときに寒いとさ、死にたくならない?」

 

 真顔でそういう彼の瞳には滔々とした闇があって、前髪が月明かりを遮ってしまうので余計暗く見えた。


「そ、れは、生命の危機的な、ことですか、ね?」

 何を示唆しているのか分からなくて、璃子は曖昧に返した。ミヤコがふっと暗い雰囲気を取り去るようにいつも通りの笑みを張り付ける。

「ま、そんな感じ。……寒くない?」

 心配した様子でまた同じ質問を繰り返してくる。ここ二、三十分ぐらいで彼は何度この質問をしてきたか。

「冷えますけれど、凍えることはありません。カイロもあったかくなってきたので」

「ならよかった」

 心底安心したように言われると、何となく憎めなくて、女誑し怖い、と思った。

「語弊」

 そう思ったこともすぐに読み取られて、言い返してくるので、璃子はちょっと笑ってしまった。


「おふたりさーん、お仕事取り掛かっていいですかね。というか、夜森さんはミヤコが心読めるの知ってるんだ。知ってて普通にしてるの?」


 イナサがすっと目を細めながら聞いてきた。そういう何を考えているのか分からない目が怖いので、璃子はマフラーに埋もれながら首肯した。イナサが嘲笑をミヤコに向ける。

「へぇー。バレたんだ、ミヤコ。珍しい」

「バレました。特殊な力を持っている人間にはやっぱりバレる」

 ミヤコの返答にイナサが「は?」と疑問符を浮かべた。「特殊な力?」

「あ、えっと、私、物の記憶が読める、んです。さ、サイコメトリ―的な」

 璃子が答えた瞬間、イナサが納得したような声を上げる。

「あぁ、そういうこと、か。読み取っちゃう系の二人だから親近感あるのかお前らは」

「そう簡単に他人をカテゴライズして括るのやめてもらっていいかな。不快」

 ミヤコが不満そうに投げると、イナサは確かに、御免ねと言って肩をすくめた。

 

 ひゅっと強い風が吹き込んで周囲の木々を揺らし、和やかな雰囲気をかき消した。ざぁざぁと雨音のように枯れ葉が揺れる音が降り注ぐ。まるで廃墟がこちらを見ろと主張しているかのように。月明かりがあるだけいいのかもしれないが、山奥の廃墟に月明かりはホラーの導入のようで余計に璃子をすくませる。璃子にはホラー耐性がなかった。お化け屋敷も駄目だ。やっぱり残っておけばよかったなと思った矢先、イナサが腰を折ってぐっとのぞき込んできた。

「怖いのは全部やっつけるし、痛い目にも合わせない。私がいるから」

 だから絶対大丈夫、と笑ったイナサの瞳はやさしい。圧倒的な自信に裏打ちされたやさしさだった。

 いいなぁと璃子はその自信と強さをうらやましく思った。

 そして同時に自分が情けなくなる。


「イナサは特殊な訓練を受けています。彼女の真似は絶対にしないように」

 テレビのテロップみたいにミヤコが差し込んできた。

「そ、うなんですか?」

「うん。イナサは俺より強いよ。まぁ俺は物理的に全然強くないから比べても意味ないけど。というか、あいつに敵う奴って多分そう居ないと思うけど」

 そんなすごい人なのか、と感心していた。入り口に入ろうとしているイナサに続いて、ミヤコも廃墟の入り口に向かって足を進めだしたので璃子も後に続く。

「ここは元病院。取り壊しが決まったんだけど、その前に変なのがいないかいたら除霊なり退治なりしてくれって言われているんです」

「じょ、除霊ってできるんですか」

「うーん、まぁ物理だけど」

「物理、霊って物理で退治できるんですか?」

「普通の人には無理」

 

 えーっと、と、璃子は言葉に詰まった。まるでそれは——。

 

——自分たちが、普通の人じゃないって言っているみたいに聞こえたんですけど……。


 そう思ったのにミヤコは何も答えなかった。

 

ガラスの割れた扉をギイギイ言わせながらイナサが開いて、あとに続く。真正面には受付だったと思しきスペースがあって、小さな小窓の奥に事務所のような場所が広がっている。受付から向かって右の道と左の道に分かれている。

 イナサが左の道の暗がりを見ながら問うた。

「手分けする?」

「そーだね。じゃあ、俺は一人の方がいいか。イナサと夜森さんが左つまり西棟、俺が右の東棟。階段上って二階まであるから、それぞれ一周回ってここで落ち合おう。なんかあったら電話して」

「了解」

 二人で割り振りを決めている間に、璃子は今から行くであろう暗い左の道を眺めていた。暗くて全然見えないのが怖い。


「夜森さん」ミヤコの声に振り返る。


「イナサがいるから大丈夫だと思うけど、絶対に一人にはならないで。あと、何かあったら大声で叫んで。声出せなくても、心の中で思えば俺が絶対行くから。約束するよ」


 すっと手袋をつけていない小指を差し出してくるので、璃子も小指を出すと、ミヤコは小指を絡めて指切りをする。


「ちゃんと君の声を聴く。絶対。どこにいても。約束するよ」


 重々しい言葉に、にこにこと楽しそうに笑う顔。それらがあまりにもアンバランスで眩暈がする。きっと怖がっている璃子に気を使ったのだろうということは分かっているのだが、なんだが、とんでもないことを約束させられている気がした。誰かの命綱を握らされたような、そんな落ち着かなさ。

 ぐいっと肩を引かれて我に返ると、イナサが璃子を隠すように間に割って入った。


「油断も隙もねぇなお前は。気軽に誓約するな。……重たい男は嫌われるぞ」

 イナサの棘のある声にミヤコが肩をすくめた。

「気を付けます」

イナサが璃子の手首を引いて西棟の方へ歩き始める。腕を引かれながら、一度だけ振り返ると、ミヤコも東棟の奥に向かっており、暗がりの中にその背中が見えなくなっていった。

「夜森さん、本当に気を付けて。優しい顔した甘い言葉はアイツ等の常套手段なんだから」

 暗がりの中を明かりもないのにすらすらと進むイナサは、諭すような声色でそう言った。

「あいつら?」

「……うん。世の中にはさ、本人が自覚なく持ってしまった性質ってのがあるの。ミヤコはいつもそれをうまく扱えない。本人の心が繊細なのに対して持っている力が強すぎるから。だから、自分の性質とそれを嫌う気持ちでパニックを起こす」

 開けた突き当りの先に階段があって、踊り場の窓から月明かりがちょうど差し掛かる。

 振り返ってイナサの顔に少しだけ当たって彼女の表情がぼんやりと見えた。


「夜森さんはさ、気づいてないんだろうけど、心を覗かれても変わらないでいてくれるって相当貴重なことなんだ。だから、ミヤコは貴方に執着し始めてる。気を付けて。相手の領域に入り込んで自分のいいように捻じ曲げるのはミヤコの得意技だよ。あいつの優しい言葉に惑わされないでちゃんと嫌なことは嫌だといいな。……じゃないと、あいつ貴方のために死んだりするタイプだよ」


 イナサの顔は始終申し訳なさそうだった。どうして彼女がそんな顔をするのか、璃子は分からなかった。でも、多分それは優しさからだということが分かる。


「イナサさんは、やさしいんですね」

 璃子がそういうと、イナサは渋い顔になってた。顔全体に分かってねぇなと書いてあった。


「あのね、私は、貴方のこともミヤコのことも心配しているんだから。そこんところちゃんと分かってね」

「は、い」

 こうまっすぐに心配されるとちょっとこそばゆくなる。

 

 イナサははっきりしている。声に揺らぎがなくて、視線にも。

 すっと背筋が伸びてて、体に力が入っていない。でもどこにも緩みがない。

 まっすぐ伸びた大木のような風格がある。圧倒的な芯の強さが彼女の全てから滲み出ている。

 どうしたらこんなに強くいられるのだろうか。


「イナサさんはすごいですね。強くてやさしい」


 璃子が称賛するとイナサはちょっとだけ嫌そうな視線をよこす。褒めたつもりだったが何か不快にさせてしまったようだった。


「あ、ご、ごめんなさい。変なこと言ってしまって」

「あぁ、いや、別に貴方が悪いわけじゃない。あー、うん。なんていうか人に褒められるの苦手なんだ。それだけ。それに私が強いのは、否定しない。物理的に強いのは事実だし」


 階段の踊り場から彼女が背を向けて先を行く。その背が月明かりから徐々に陰に入る。


「——でも、役立たずだ」


 はっと笑って吐き捨てられた言葉をイナサがどんな表情で言ったのか、璃子の場所からは知ることができない。二階の廊下に消える背を追いかけて階段をかける。


「イナサさん」

「ん? 何かあった? あ、もしかして寒い?」

 暗がりの中のイナサの顔は変わらず凛としていた。聞いたら、否聞いても教えてはくれないだろう。璃子は「いえ、大丈夫です。カイロがあったまりすぎて暑いくらいで」といった。

 イナサは「過保護バカに文句言ってやりな。あ、やっぱなし、もっと煩くなるからやめてね」と笑っていた。

 自信のあるようにみえる彼女からどうしてあんな言葉が出るのか。

 きっと自分は話してもらえない。

 聞いていいのか分からない。

 誰にだって言いたくないことも言えないこともある。

 璃子自身も、サイコメトリーのことよりも、話したくないことがある。

 お互い話したくないことがあって、でもそれを許せるのは心地いいと思った。

 自分の心を理解できるか分からない人に話をするのはとても苦痛だから。

 

 そんなことを思いながら、棟の中を歩くイナサが、たまにぽつぽつと、とりとめのないことを話すのを、璃子は穏やかな気持ちで聞いていた。

 棟の奥まで歩いても特に霊らしきものは居ない。璃子にはそういったものを見る目がないので、イナサが言うには、であるが。どこにもいないらしい。


「というか、私たちがここに来た時点で、逃げていったと思うんだよね」

 棟のまでたどり着いていたので、奥の階段を下りながら、イナサがなんてことないといったように話している。

「え? どうして、ですか?」

 他人の気配があると逃げる、とか幽霊にもあるのだろうか。イナサは説明しづらそうに唸る。

「……例えばさ、強面の人たちがたむろしている店とか場所って、みんな避けるでしょ。なんかされるかもしれないって思うわけで。つまりはそういうこと」

「えっと……」

「私とミヤコの気配を怖がってみんな逃げるの」

「あの、それって、」

 

 どうしてそんなことになるのか、と、口にしようとした瞬間、かくんと足元が宙に浮いた。

 段差が見えていなかったせいで最後の一段を踏み外したのだ。咄嗟に掴んだのは治療室と書かれた扉の取手だった。掴んだ瞬間、ぞくっと指の先から冷気のようなものを感じて体が悪寒で震えた。


 ——あ、まずい……。


 油断していた。

 冷気は指から這いあがって全身に回る。

 ざあ、っと耳障りな砂嵐のような音と共に、目の前の薄暗い廊下の景色が、色鮮やかな映像で塗り替わっていく。

 でもすべてが断片的ですぐに映画のフィルムを変えるようにくるくると場面が変わっていく。

 明るい廊下で白衣を着た看護師が患者の車いすを押して声をかけている。

 かと思えば、担架で運びこまれた患者が大声で呻き、医者や鋭い声を飛ばし看護師が患者を押さえつけている。

 泣いている付き添いの人々の影。

 医者に怒鳴りつける病衣の人物。看護師の剣のある声。せわしなく走り回る人々。

 その合間に飛び交う感情が一気に流れ込んでくる。


『痛い』『苦しい』『さみしい』『辛い』『疲れた』『家に帰りたい』


 患者や医者、看護師、家族、この場所にあった残り香のような記憶の数々が璃子の中にとめどなく流れ込む。

 普段なら構えているのである程度コントロールが効くが、急だったことと、特に古い物や場所、または放置されてきた物や場所は力が強くそして語りたがり屋だ。

 己の記憶を平気で璃子の中に混ぜ込んでくる。

 念の強い物や場所は見る人間には刺激が強い。

 ちゃんと過去の記憶と自分とを線引きをしていないとあっという間に自分の意識が飛んでいく。

 そして、すべて見終えるまで出てこられなくなってしまう。

 それは怖いことだった。

 

 たまにこういった状態になってしまい、終わるまで出てこられない。終わった後も、まったく関係のない記憶の処理に脳が追われて動けなくなってしまう。

 

 ——怖い、誰か、誰か助けて……。

 

 押し寄せる映像と感覚に自分という存在が溶けていく。

 

 五感を塞いでいく濁流の中で、薄紅の火花がぱちんと散った。

 薄紅の火花はまっすぐに飛んできて、璃子の視界でぱっと花火のように咲いていく。

 周囲の砂嵐や記憶よりも鮮烈な火花が視界を覆った。



「こっち。俺を見て」


 不意に聞こえた声に璃子の視界が現実に戻る。


 薄紅の灯りはミヤコの瞳だった。

 ミヤコの両手が璃子の顔を挟んで視線がまっすぐに合っていた。

 璃子は何度か瞬きを繰り返す。現実に戻ってきたのだと気が付いて、深く息を吐いた。ミヤコが璃子の顔から手を放して、安堵した顔で少し距離を取る。


「焦ったぁ」

 イナサが深々と溜息を吐いている。よくよく状態を把握していくと、璃子はイナサにいわゆるお姫様抱っこという形で抱えられていた。


「ご、ごめんなさい。降ります、降ります!」

 わたわたと暴れる璃子をイナサがゆっくりと降ろす。ちょっとふらついたがイナサが腕を掴んで支えてくれた。


「急にうんともすんとも言わなくなって固まって。目を開けたままどこも見てないし、悪いのに乗っ取られたか、なんか入り込んだかと思ってミヤコのところまで走ったから」

 イナサがミヤコの元まで運んでくれたようだ。今いるのは最初に別れた受付前だった。

「す、みません。急に記憶が入ってきちゃって。いつもはこんなことにならないんですけど。古い建物だったから、ですかね、油断してました」

「そっか、まぁよかった。ミヤコがいてよかった。私一人だとこういう内側のことは対処できないから」

 璃子は対処という言葉に、どういう意味だろうと思った。

 ミヤコの力は人の心を覗く、思考を理解する的なものだと思っていたのだが。


「君の力と、俺の力の違い。君は受け取りやすい体質。だから触れた物とか場所の影響を受けやすい。思念を受け取る体質。俺は逆。他者の思考と記憶に干渉しているんだ。今風に言うと、不正アクセスとかみたいな感じかな。他人の思考を勝手に覗いたり、勝手に誘導して書き換えたりすることができる。だから、さっきは夜森さんの思考に勝手の入って引っ張り出した」


 説明を終えたミヤコは、ごめんね、というと居心地悪そうにちょっと俯いた。

 他人の思考に干渉というのは少々驚いたが、助けてもらったことは事実なので、璃子は素直に感謝した。おかげで記憶に飲まれた疲労があまりない。


「いいえ、ありがとうございました。あの状態になると戻ってくるまで時間がかかるのでとても助かりました」


 璃子は素直に礼を述べたのだが、ミヤコはちょっと面食らったような顔をした。


「自分の思考をいじられて感謝する奴はいないよ。君は大分失礼なことをされたんだよ」

「そ、れはそうですけど、でも緊急事態の人命救助行為ですよね。それ以外に何かを勝手に干渉していじったというなら嫌ですけれど、それはしてないですよね」

「まぁ、そう、なんだけど、うー……ん、イナサ、俺が神経質すぎるのかな、それとも夜森さんがおおらかすぎるの?」

 璃子と視線を合わせていることに耐えかねたように、ミヤコがイナサに視線を逃がした。

「知らん。本人が大丈夫って言ってるんだからいいんじゃない。他のところ弄ったわけじゃないんならいいじゃん」

 ミヤコが「いや、でも、だって」ともごもごとマフラーの下に口元を埋めたまま何か口ごもっている。手袋をつけていない両手を落ち着きなくさすっていて、途方に暮れているようだった。

「助けていただいて、ありがとうございます」

 璃子は笑ってミヤコの手を自分の手袋をはめた両手で包み込んだ。

 ぎくっとミヤコがこわばったが、視線を合わせると、「いいえ」と逃げるように身を引いた。

「上には上がいるってな」

 イナサがその様子を見て笑った。


 とりあえず、仕事自体は終わったようだったが、そういえば、と璃子は二人に問う。


「あの、どうしてお二人がここを歩くだけで幽霊が逃げるんですか? 霊能力者だから、とかなんですか?」


 問いかけられたイナサとミヤコは明らかに詰まったような表情になり、お互い目配せをしている。

 言うか言わないか、どうするか考えているようだ。イナサは何も言わないが、時折、ミヤコが小さめの声で「いやでも」「まぁそうなんだけど」と答えているので、何か二人の間で問答があるようだ。

「あー、じれったい。もうしょうがないじゃん。ミナさんが雇った時点で隠しきるのは無理! 駄目だったら住む場所考えてあげればいいでしょ?」

 しびれを切らしたようにイナサがミヤコに嚙みついた。だが、ミヤコは困ったように「いや、でも、」と口ごもる。

 その様を見て、ますますイナサがヒートアップする。

「お前は、本当に! 嫌われるのが怖いだけだろ! 腹くくれ!」

 イナサの声にミヤコが詰まって、「わ、かった」と悲しそうにうなだれた。

「あ、ご、ごめんなさい。無理に聞きたかったわけじゃなくて」

 璃子は二人の様子に慌てて質問を取り消そうとしたが、イナサが白い手をすっと璃子の顔の前にかざしたので押し黙った。

「違うよ、夜森さん。あなたは知らなきゃいけないから。これを隠したまま一緒に仕事も暮らすのもあなたにとってフェアじゃない。知ったうえでちゃんとこれからのことを判断してほしい。だから聞いて」

 璃子はイナサの言葉に首肯した。


「あのね、私たちは人間じゃない。人間たちの言うところの妖怪という種族です」


「は?」


 璃子のすっぽ抜けたような声が廃墟に響いた。











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エンゲツ堂に至るころ ラブカの人魚 @momohanan0kaze9999

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