第21話 長い日の終わりに

 その後、倒れていたのは首筋から血を流した女性だったと、シャノンはポケットの中で耳にした。


 ルーファスが呼んだ自警団によりその遺体は運ばれていった。男たちの口振りによると、首筋を噛まれた若い娘や子供がこういった形で発見される事件が、最近この城下町で多発しているらしい。


 ルーファスは動揺することなく状況を説明して事件の後処理を彼らに任せると、すぐに裏通りを離れた。

 その後、酒屋で食事を取り、軽く絡んできた踊り子にチップを渡して城下町を後にする。


「物騒な事件でしたね……あれも堕天使が関係しているのでしょうか」

「どうだろうな」

 なにか知っているような含みのある言い方だったけれど、ルーファスがそれ以上を話てくれる気配はない。

 相変わらずの秘密主義だ。


 シャノンはまだ自分が信用されていない気がして唇を尖らせながらも、これ以上聞いても無駄だと察し諦める。


 帰り道でもまた刺客が現れたらどうしようと心配していたのだが、そんな会話をしているうちに何事もなく屋敷へ戻ってきた。


「おかえりなさいませ、ルーファス様。シャノン様」

 ルシールがお出迎えに来て夕食はどうなさいますかと尋ねてくれたが、ルーファスは食べてきたから大丈夫、とだけ告げ部屋に戻る。


「さあ、鳥籠の中へどうぞ」

 シャノンは「はい」と素直に鳥籠の中へ戻る。

 ルーファスは先程買ってきたものを枕元に置くと、自分も寝支度を始めた。

 思い立ったように道具を買い揃えに行ったのを見て、今夜のうちに戦いでも始まるのかと思っていたシャノンは拍子抜けだ。


「ルーファス、寝ちゃうんですか?」

「寝る、今日は疲れた。朝から歩きっぱなしだし、突然襲われるし」

 おやすみ、とランプの灯りを消しながら言って、ルーファスはとっととベッドに入ってしまった。


 シャノンは人形なので基本眠くなったりしない。ただ最近はなぜだか。

「ふあぁ~」

 欠伸がでたり、急激な眠気に襲われたりする時がある。まるで人間みたいに。


 そして今夜も鳥籠の中に用意されたふかふかのコットンの上に、ぱたりと横になったのだった。



◇◇◇◇◇



 人形は夢なんかみない。だって身体の中は空っぽだから。心だってありはしないのだ。

 それなのに……どうしてだろう。シャノンは夢の中にいた。


 優しい温もりに包まれて、大切に大切に守られている。そんな都合の良い夢だった。


 ここはどこだろう。なんて心地がいいんだろう。いつから自分はここにいたのか、思い出せないけれど、もうずっとここにいようと思った。なのに。


『そろそろ戻ったら? 彼が君を探しているよ』


 知らない誰かの親しげな声に、シャノンも自然と言葉を返す。


「彼って誰のこと?」

『君のフィアンセでしょう?』


 フィアンセ? それって誰だっけ……。


『早く仲直りしなさい。そして――』


 親しげな声は突如途切れ、シャノンは目を覚ました。

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