第19話 魔術道具店

「ここまでくればとりあえず大丈夫か」

 城下町は日が暮れても賑やかな場所だった。

 飲み屋が並ぶ通りは特に歌声や楽器の演奏、きわどい格好をした女性たちが客の呼び込みをしていて華やかだ。


「さっきの人たちも、王候補のどちらかに雇われて襲ってきたんでしょうか」

「いや、あれは権力者の飼い犬だ……おおかた大臣あたりの刺客か」

「大臣がどうして」

「オレがこの前啖呵を切ったのが気に食わなかったんだろ。自分の言う事を聞かなそうな男を王に迎えるのは、大臣たちにとって都合が悪い」


 そう考えるなら先日の大臣がフィルを強く押す理由も、彼の持つ力というよりまだ未成年であり政に携われないことを見越してなのだろう。自分たちが国を回し続けられるように。そう聞かされるとあまりいい気持ちはしなかった。


「悪い大人の事情が渦巻いているんですね」

 ルーファスは「そういうこと」と軽く答えいつも通りで動じてもいない様子だが、シャノンはその他にも少しだけ引っ掛かることがあった。


(さっき、ルーファスは『オレたちみたいなのには沈黙の掟がある』って言ってた……)

 まるであの刺客たちと同族のような言い回しだ。


「あの人たちは、雇われて人を殺めたりする職業なの?」

「おそらく。相応の金をもらえるなら、なんでも受ける奴らもこの世の中には山ほどいるからな」

 鳥籠の中のお姫様には信じられないかもしれないけど、とルーファスは冗談めかして言うだけだった。

 そしてシャノンがそれ以上踏み込めないでいるうちに、ルーファスが足を止める。


「ここに用事?」

 そこは華やかな飲み屋通りから一本裏道に入った場所にある、石造りの小さな店だった。

 先程の喧騒が遠くの方から聞こえてくるけれど、薄暗くて少し不気味な雰囲気がある。


「閉店中?」

 風に揺られ変色した看板がぷらぷらと揺れている。活気がまったく感じられない。

 けれど窓から薄紫や緑色の光がゆらゆらと揺れているのが窺えた。


「ちゃんと営業中のはずだ」

 とっても不気味な明かり具合にシャノンは息を呑む。

 しかしルーファスは躊躇なく木で出来たドアに手を伸ばし中に入った。


 店内には頭がぼうっとするような甘い香りが漂っていた。

 客は自分たち以外見当たらなくて、棚には瓶の中で薬品につけられている得体の知れない生物が並べられている。シャノンは益々不気味に思い身が竦んだ。


 その棚から視線を逸らしても反対側の棚には、色んな動物の骨やらどろどろした液体が入れられた壷が置かれていて気が休まらない。


「ここは魔術道具屋さん?」

 ルーファスが「正解」と答えてくれたところで、薄暗い店の奥から黒いローブを纏った人影が現れる。

 シャノンはこのおどろおどろしい雰囲気から、白髪の怪しげな老女が出てくるのではないかと勝手にイメージしていたのだけれど。


「あら、いらっしゃい」

 艶のある声音がして顔を見ると、美しく色気を纏った大人の女性が微笑んでいた。

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