第16話 ダグラスの大罪
それからシャノンの周りでは不穏なことがいくつも起きた。
まず森から屋敷に戻ると部屋が荒らされていた。
幸い貴重品などが盗まれていることはなく、嫌がらせの類だろうとルーファスは言っていたけれど、シャノンにとっては充分にショックな出来事だった。
その後には窓辺に例の鷹が何度が様子を窺うように姿を現したり、メイドが持ってきた昼食の中に毒が仕込まれていたりした。
「ん……このスープ、毒が入ってるな」
一口食べて平然とルーファスがそんなことを言うものだからシャノンは大慌てだ。
「大変。ルーファス、早く吐き出して!?」
鳥籠の中で右往左往するシャノンの動きが面白かったのか、ルーファスは笑いながら「大丈夫だから慌てるな」と言う。
「オレ、ある程度の毒には耐性があるんだ。スープで薄まったこの程度の量じゃ腹を壊すこともない」
「そ、そうなの? なんでそんな耐性が」
「……育ってきた環境の賜物」
どんな環境で育ったのか知らないが暢気にしているルーファスは、本当に苦しむ素振りも見せず平気そうなので、とりあえずシャノンも胸をなで下ろした。
「それにしても、食事に毒か……王候補たちは、使用人を味方につけているようだ」
ルーファスは料理人やメイドが首謀者の指示によって毒を仕込んだとみているようだったけれど、料理を届けてくれたのはルシールだったため、シャノンはあまり疑いたくなかった。
「ルシールさんはとても良い人だし、王候補のどちらともそんなに親しそうには見えなかったですけど」
「ルシールってさっきのメイドか……それはどうかな」
料理を口にするのは止めフルーツを頬張りながらルーファスは言う。
「初日に真っ赤な薔薇の花束をアルバーノに頼まれ届けたのは彼女なんだろ? 次の日、オマエを連れ出してアルバーノに引き渡したのも彼女だ……怪しすぎる」
それは確かに……。
「ルシールさんがアルバーノさんと繋がってるって考えているの?」
「いいや、それはまだ言い切れない。その可能性もなくはないってだけだ」
先日ルーファスが挑発したのはアルバーノではなくフィルの方で、彼がなにか仕掛けてきている可能性だってある。
それから王候補以外に狙われている可能性だってないとは言い切れないのだ。
「誰が敵でもおかしくない、ということですね」
「誰が、というよりは全員が敵でもおかしくないと考えておくのが普通だろ」
きっぱりと言い切るルーファスは、こんな状況なのに恐れている様子が少しもなかった。
シャノンは正直怖くて仕方ないのに。
「こんな危険な場所で、あなたはなにをする気なんですか?」
この人は浄化の炎を使える。けれど本当に大天使に選ばれた真の王候補と言えるのかは、シャノンにも分からない。
「オレの目的は偽者の排除と、この大陸をあるべき形に戻すこと。ダグラスが罪を犯す前の世界に……それが、一族のためでありオレが唯一出来る罪滅ぼしだから」
「それってダグラスの大罪と言われている事件に、アルラジアス王国の王が不在であることが関係しているってことですか?」
「そうだ」
ずっとはぐらかしてきたことを、ルーファスは気まぐれのようにあっさりと告げた。
「……ダグラスは、不死鳥とアルラジアスの王になるべき人をこの国から奪ったんだ。くだらない私情のためだけに」
眩暈を感じた。それはつまり……この国が、そしてこの大陸が黒雷に悩まされている原因を作ったのは、ダグラスということになる。
「マスターは感情的になることなんてない方でした。それなのに」
「感情のない人間なんて存在しない。ダグラスは平静という仮面を付けオマエを欺いていただけだ。心の底は、私利私欲に塗れていたのに」
「そんな言い方……マスターを侮辱しないでください」
シャノンはきゅっと眉間を顰めた。けれどルーファスは怯まない。
「なにも知らないからそんなことが言えるんだ。オマエだって、ダグラスの本性を知ったら嫌いになる、あんな男」
「マスターの悪口なんて聞きたくないです!」
「悪口じゃない。真実を言っているだけだ!」
「でも、マスターは立派な方だもの。わたしのことを作ってくれた人で、いつも大切に扱って守ってくれました」
「守ってくれた、ね。ただ籠の中に閉じ込めて意のままにしていただけだろ。陰気で、いやらしい男なんだ、反吐が出るぐらいっ」
ルーファスはシャノンの言葉を鼻で笑った。
「なっ、なんてことを言うの!」
「あんな男、庇うなよ! あの男のせいでどれだけの人間が苦しめられ、オースティンの一族が虐げられてきたか」
「そんなこと知らないです。だって、ルーファスはなにも教えてくれないじゃない。わたしにとっては、マスターが全てだったんだもの。それなのに、ルーファスはマスターの悪口ばかり! ルーファスの意地悪!」
「っ……オマエがダグラスを良い様に語るたびに虫唾がはしる。洗脳されていただけなのに、かわいそうな……オレの花嫁」
「っ……」
そう言った彼の目はとても同情的で、そしてなぜか悲しそうでもあった。そんな彼の態度に意味が分からなくて、ますますシャノンはカッカと頭に血を上らせたのだけれど、ルーファスはもうこれ以上議論する気がないようで、長椅子に座りこちらには目もくれずダグラスの魔術書を読み始めたのだった。
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