第14話 宣戦布告
下ではフィルが住民たちに感謝されている光景が見えるけれど、ルーファスはそんなことには感心を示さず鳥籠を自分の顔の高さまで持ち上げる。
「なにか言い訳したいことは?」
シャノンが勝手な行動をとったことに対して言いたいことがあるのだろう。
「ごめんなさい、でも……」
アルバーノは悪い人ではなさそうだった。そう伝えようと思ったけれど、ルーファスにとっては王候補全員が偽者なのだ。なにを言っても無駄に思える。
「でも、なんだよ?」
「わたしも……外の世界をもっと知りたかったんです。なにも知らないまま、鳥籠の中のお人形でいるのは嫌だから」
「嫌でも仕方ないだろ。今のオマエは無力な人形なんだから」
「そんな言い方しなくても……」
「事実、だろ?」
確かに事実だ。事実なのだけど……面と向かって役立たずと戦力外通告されているようで悔しくなる。
「そういうルーファスは、なんでここに?」
「そんなの後をつけてたに決まってる」
「え?」
「あのな、素性の知れないメイドなんかに、本気でオマエを任せるとでも? 現にあの女、オマエの面倒をアルバーノに簡単に譲ってた」
昨日のようにシャノンを狙う何者かが襲ってこないか、こっそり後をつけて監視していたのだとルーファスが言う。
「そんな、まったく気が付かなかったです……」
シャノンが青ざめてると「気配を消すのは得意なんだ」とルーファスはなんてことないように答えた。
どんな特技だとツッコミたい衝動に駆られたけれど我慢する。
それに後をこっそりつけながらも、暇を持て余していたシャノンに自由行動を許してくれたのは事実なのだし。
「勝手な行動をしてごめんなさい」
改めて謝るとルーファスはそれ以上シャノンに追い討ちをかけるようなことは言わなかった。
「フィル、よくやった」
大きな声が聞こえてきてシャノンとルーファスが人だかりの方へ視線を落とすと、野次馬たちが一斉に道を開け、そこから護衛を引きつれ初老男性が現れたところだった。昨日審査の門にいた大臣だ。
確か名をパスカルと言ったか。
「あの人、いつも偉そうですね」
「王がいないこの国では、大臣たちが国を動かしているんだ。王無き今、そりゃあ偉そうにもなる」
彼は今現在この国で王に等しい権力を持っている人物の一人ということだ。
「もはや王の座に着くのは誰か、審査を続けるまでもない」
次の王はおまえで決まりだ、とパスカルが大げさな口振りで告げると拍手が沸きあがった。
「フィルさんが国王に決まったの?」
あまりの歓声があがったので大臣の権限でそうなったのかと戸惑ったが、そんなわけないだろうとルーファスは鼻で笑う。
「この国の王を選べるのは大天使だけ。杖を召喚できない者を王座に座らせたりしたら、大天使から完全に見放されるんじゃないか?」
ルーファスはそう言うけれど、国民はもうフィルで王は間違いないと信じているようだ。
「少し場を掻き乱すか」
「え?」
ルーファスは不敵な笑みを浮かべると、屋根から軽々と飛び降り着地する。
「恐縮ですが大臣、それは些か早すぎる判断ではないでしょうか」
ルーファスの発言に周りの視線が一斉にこちらに向いて、シャノンだけが怖気づきそうだったけれど彼は動じない。
「貴様は……」
護衛たちがパスカルを庇うように前に出たが、パスカルはそれを制し一歩前に出てきた。
「大臣、他にも王候補がいることを、忘れてもらっては困ります」
「ふん、自分が王だとでも言いたいのか。だが今の炎をみただろう。杖が召喚されるのも時間の問題だ」
「ええ、今の炎を見て確信いたしました。あんなもの、浄化の炎でもなんでもない」
ルーファスは堂々と人混みを掻き分けフィルと大臣の前まで歩み寄り、挑発的な表情でフィルに告げる。
「オレなら闇に支配された人間も救える。真の浄化で闇だけを消し去って」
その言葉を聞いたフィルの目が、すっと細められた。
「そうですか。ならば次はあなたの炎を見せてください。誰よりも早く現場に駆けつけて」
それだけ言うとパスカルに失礼しますと一礼して、フィルはその場を去って行った。
パスカルも不愉快そうにルーファスに目をやるとすぐにその場からいなくなり、住民たちもフィルと大臣のいなくなったその場に留まることはなく散ってゆく。
「大勢の前で、あんな喧嘩を売るようなマネしなくても」
「わざと大勢の前で喧嘩を売ったんだよ」
「なんでそんなこと」
「宣戦布告ってやつ。オレはやつらの言いなりになるつもりはないから」
だからって挑発しなくてもとシャノンは思うのだけれどルーファスは言う。媚びなくても王の座を取れるのだという自信をみせつけ相手を揺さぶるのだと。
「さて、これで向こうはどう出るか」
ひやひやしているシャノンの気持ちなどお構いなしで、ルーファスはまだ挑発的な笑みを浮かべていた。フィルが消えた方向を眺めながら。
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