第13話 消滅の炎

「フィル様、フィル様だー!」

 遠巻きに事件を野次馬していた人々の声にシャノンは顔を上げる。


「今最も王に近いとされている少年の登場ですよ」

 彼の炎を見てみたかったのでしょうとアルバーノに言われ、シャノンは頷いた。


 昨日夕食を共にした口数の少ない少年は、目を閉じ一呼吸した後すっと静かに目を開いて手を翳す。今にも人に襲いかかろうとしていた堕天使に向かってだ。


「ぐあぁああぁぁぁっ」

 叫び声を上げ赤い炎に飲み込まれた堕天使が、そのまま倒れて消えていった。跡形もなく。


 なんて恐ろしい光景だろうと思った。炎に焼かれ元は人間だったはずのその人が、もがいて暴れて消えていったのだから……けれど。


「フィル様だ! フィル様の炎が我々を守ってくださったぞ!」

 住人たちは歓声をあげ、あの炎を恐れていない。そして止まない拍手の向こうでは、自警団に心から感謝され頭を下げられているフィルがいる。


 まだ幼さの残る少年に、大人たちが頭を下げ崇拝しているのだ。


「あれが人々を救う浄化の炎です。どうです、その目で見た感想は」

「よく分からないけど……ルーファスの炎の方が綺麗でした」

 感謝されているフィルを眺めながらシャノンは素直に答えた。


 それだけじゃない。ルーファスの力は「消す」のではなく「浄化」だった。けれどフィルのそれは堕天使を炎で飲み込み「消滅」させる力のようだ。

 それを救いと呼べるのだろうかとシャノンは疑問に思う。


 おかしなことを言う奴だと否定されるかとも思ったが、アルバーノは「それは興味深い感想ですね」と呟く。


「私も見てみたいです。その美しい炎を」

 やはりアルバーノは不思議な人だ。

 王候補でありながら、自分も使いこなせるようになりたいとは言わないのだから。


「あれが浄化の炎……どこが浄化だ」

 ぼそりとアルバーノ以外の呟きが聞こえた気がしてシャノンは顔をあげる。


「え、ルーファス!?」

 シャノンは籠の中で飛び上がった。

 気が付くと自分たちの隣にルーファスが立っていたから。


 上っ面は微笑んでいたが、勝手にアルバーノと行動を共にしていたことで怒られるんじゃないかと、シャノンはそわそわと視線を逸らす。


「シャノン、勝手に城下町に出掛けるなんて見過ごせないな」

 やっぱり……口元には笑みを浮かべているのに、凄まれている気分にさせられた。


「えっと、これはその」

「すみませんね、ルーファス殿。私が彼女をデートにお誘いしたのですよ。もっと彼女を知りたかったので」


「そうですか。では、そろそろ返してもらえます? それオレの花嫁なので」

 笑顔のままルーファスは鳥籠を受け取るが。


「おや、彼女が不死鳥の娘であるなら、王である者のパートナー候補でしょう。そして昨日も言いましたが私の花嫁になる可能性もある」

 「ねえ、シャノン」と問われ、どうしたものかとシャノンはしどろもどろになった。


「だめですよ、人の者に手を出すなんて。ダグラスの悲劇を再現するつもりですか?」

 ダグラスの悲劇とはなんの話か聞きたいけれど、シャノンが口を挟める雰囲気ではない。


「シャノン、本当は部屋まで私がお送りしたかったのですが、今日のところはルーファス殿にお返ししましょう」

 そう言うとアルバーノは身軽に屋根を渡り一人でとっとと行ってしまった。

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