第11話 アルバーノと城下町へ

「天気もいいことだ。本当ならお茶会といきたいところですが」

「すみません、あまり遅いとルーファスが心配するので。それで、わたしになにかお話しですか?」


 二人きりになり警戒気味のシャノンをアルバーノはじっと見つめる。


「不死鳥の加護を持ちながら、貴女は悪い魔術師により小さくなってしまったとお聞きしたのですが、それはいつ頃の話ですか? そして不死鳥に選ばれたのはいつですか?」

「えっ」

 いきなりの困る質問に声が裏返る。


「そ、れは……あまりのショックに覚えていないんです」

「なるほど、記憶を失っているということですか。どのぐらい?」


 なかなか聞いてほしくないような、返答に困る部分をついてくる。

 こっちから質問攻めにして探りを入れるつもりだったのに、完全に立場が逆になってしまった。


「生活に支障はありません。ただこんな体になってしまった前後の記憶が抜け落ちているだけです。不死鳥に出会ったのもその辺りの時期なので、あまり記憶が」

「そうですか。ではルーファス殿とはどういった経緯で行動を共にしているかは、覚えておいでですか?」


(ガラクタの中から見つけられてだなんて、口が裂けても言えない)


「なぜ、そんなことを聞くのですか?」

「昨日も言いましたが、貴女が本物の不死鳥の娘ならば……私の花嫁になる可能性もある。こんな言い方は失礼と承知ですが、ルーファス殿が偽者の場合、貴女はその力を利用されるため騙されていることになるのですよ」


 そんなこと言われなくても分かっている。

 自分が今どれだけ危うい立場にいるかなんて……。


「それから、あの事件以来もう復活することはないとされていた不死鳥の加護を、一体どこで受けたというのか個人的な興味もあります」

「もう復活はされない?」


 不死鳥は何度でも蘇る鳥なのに……?


「おや、貴女は不死鳥の加護を受けた娘だというのに、なにもご存知ないと?」

 ギクリとする。ルーファスは大事なことをなにも教えてくれないし、鳥籠の外の世界を知らないシャノンはこの世界について無知すぎるのだ。

 アルバーノの問いに素直に反応しているだけじゃ、怪しまれるのも無理はない。


「わ、わたしは……天涯孤独の身であるうえ、記憶喪失のところをルーファスに拾われました。恐らく、あの事件とやらが起きた時代から、眠り続けていたのです」

「なんと……」


「長き時を廃墟で眠り続けたわたしを目覚めさせた彼の力は本物です。信じてもらえないかも知れませんが、不死鳥の加護により、わたしは数百年の時を歳も取らずに眠り続けていられたようです」

 シャノンは自分の口からでる出任せに我ながらヒヤヒヤしていたが。


「そうですか……信じがたい話ではありますが、仮にあの事件に貴女が巻き込まれていたなら、信憑性もありますね」

 アルバーノが勝手な解釈で納得してくれたようなので、余計な事は言わずに頷いておいた。


「教えてくださいませんか、アルバーノさん。貴方が知っている過去に起きたあの事件のこと、そしてわたしが眠っていた間に起きた問題について」

「……ルーファス殿からは、お聞きになっていないのですか?」


「彼はわたしの身体をとても心配してくれているのです。記憶が混乱している状態で、沢山の情報を知るのは心身ともに負担が大きすぎると……けれど、わたしは知りたくて」

 アルバーノは「なるほど」と深く頷いた後、しばらくの間無言になった。


 やはりこんな口からでた出任せでは信じてもらえなかっただろうかと諦めかけた頃、アルバーノは籠を自分の顔の位置まで持ち上げシャノンと目を合わせた。


「ルーファス殿の心配する通り、過去の話を聞くことは貴方にとって心身的な負担になりえますが、その覚悟はおありですか?」

「はい」

 シャノンは大きく頷く。恐怖などなにもない。たとえどんな過去を聞かされようと、人形である自分に壊れる心などないのだから。


「そうですか、では……」

 シャノンは少し緊張した面持ちで次の言葉を待った。


 しかし――


 口を開きかけたアルバーノは、僅かに眉を顰め急に遠くへ視線を移す。

 シャノンも不思議に思い同じように遠くへ目を向ける。晴れ渡った晴天の空が広がっているが。


「来ますね、雷がもうすぐ」

 こんなに良い天気なのに、と言いたいところだがこの大陸の黒雷はいつだって突然降ってくるのでありえない話しではない。

 しかし予測するのが難しい黒雷を、なぜこの人はもうすぐ落ちるなどと……。


「っ!?」

 空が黒く閃光し、間もなくして激しい雷の音が響き渡る。

「なぜ、黒雷が落ちると分かったんですか?」

 シャノンが驚きで目を瞬かせていると、もくもくと漆黒の雲が遠くの方から流れてきた。

 そうしてまた闇の亀裂が大地に向かって落ちてくる。


「私はこの国の王候補ですから。分かるのですよ、良くないことが起こる予兆が」

 この状況を見せられて「嘘」とは言えなかった。

「また一つ城下町に落ちるでしょう。被害がでるかもしれない」

 シャノンは無意識に身体を強張らせていた。昨日の堕天使を思い出して。


「昨日はルーファス殿がご活躍されたと窺っています。今日はフィル殿がご活躍されますかね。手柄を何度も取られる訳にはいかないでしょうから」

 他人事のようにアルバーノはそう言う。自分だって王候補を名乗っているというのに、まるで高みの見物をしているかのようだ。


「行きますか、花嫁殿」

「え?」

「城下町に行って、フィル殿の力を見てみたいとは思いませんか? 不死鳥の力を宿した娘としては」

「……見てみたい、です」


 まるで最初からシャノンがそう答えると分かっていたかのように、不敵な笑みを浮かべアルバーノは歩き出した。城下町へと。

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