第10話 花園にて
薔薇のトンネルを抜けると、その先には手入れが施された花園が広がっていた。
ルシールはシャノンの入った鳥籠を東屋に用意してあった白くて丸いネコ足テーブルの上に乗せてくれる。
「ここは城に勤める者ならば誰でも出入りが自由な庭で、わたくしもよく息抜きに来るんですよ」
花の匂いが風に乗せられてきて、心地よくシャノンの鼻腔を擽る。
「そこに咲いている薔薇を少し貰って作ったのが、昨日のアルバーノ様からの花束です」
ルシールはにこにこと屈託のない笑顔で、外に用意されている椅子に腰を下ろす。
「ルシールさんは、アルバーノさんとよくお話しになるんですか?」
「いえ、わたくしはただのメイドですもの。あちらから話しかけてくだされば対応はしますけれど」
「そうですか」
アルバーノやフィルと親しいのなら、彼らの人柄を窺ってみようと思ったのだが難しいだろうか。
シャノンは少し言い方を変えてもう一度聞いてみることにした。
「ルシールさんにとって、アルバーノさんはどんな方ですか?」
「頭の回転が速くて、きっちりとされたとてもスマートな方だと思います」
確かにシャノンが昨日受けた印象もそんな感じだ。
「知的なお顔立ちをされていますし、このお屋敷だけじゃなく城のメイドたちであの方に憧れている子も多いんです」
確かに目を惹くような存在感がある人かもしれない。
「けれどルーファス様が現れて、少し使用人たちの人気が割れそうですね」
「え?」
「だってルーファス様、息を呑むような美青年じゃありませんか」
「そ、そうですかね」
なんとなく返答に困ってシャノンは苦笑いを浮べた。これがマスターのことを言われているなら、もっと誇らしく胸を張るところだが相手はルーファスだしなんだか複雑だ。
「それにわたくしたちと城にいる使用人に、ご挨拶ですとお菓子をくださって」
昨日長いこと部屋を空けていると思えば、そんな根回しをしていたのか。
確かにルーファスはそういうところ抜かりなさそうだ。
「城の使用人たちはこちらの別館に来ることも少ないというのに、気配りのできる素敵な方ですね。ルーファス様は」
「そうですかね……」
気配り上手というか、あの人のことだから恐らくは今後のことを考えて自分が有利になるための行為だろう……。
「でも今の時点で一番王に近いとされているのはフィルさんなんですよね?」
「そうですわね。すでに国民からも支持も得始めています」
「ルシールさんも、彼が王になってくれればとお考えですか?」
「わたくしは……しがないメイドですので、そんな意見は申し上げられませんわ」
彼女は当たり障りない言葉とともに綺麗な笑みを浮かべた。
本音は隠されてしまったようだ。
「じゃあなぜ、フィルさんは国民の支持を?」
見掛けだけで判断するのはよくないだろうけど、正直フィルとアルバーノが並んでいたら子供と大人だ。アルバーノのほうが、幼さが残るフィルよりは今現在王と呼ぶに相応しいと思ってしまいそうだが。
「やはり浄化の炎を使い、黒雷から住民を守ってくださっているからでしょうね」
浄化の炎。ルーファスもその炎を使えたことから、一日ですんなりとこの城の中へと入れてもらえた様子だし。
この大陸ではあの炎が神聖なものとされている証だろう。
「浄化の炎を使い国民を黒雷の呪縛から解放するのも王の役割。アルバーノ様も特殊な能力をお持ちのようですが、やはりフィル様のお力に比べインパクトに欠けます」
「浄化の炎……それが決め手になるのなら、ルーファスとフィルさんは同等ということになりますよね。いえ、ルーファスの方が一歩リードしてる?」
王となるものにだけ現れる同じ能力を使う二人、ならば不死鳥に選ばれた娘を連れているルーファスのほうが、条件では有利なのかもしれない。それは嘘なのだが……。
「どうなのでしょう……杖を召喚できなければアルラジアスの王を名乗る事は出来ませんから。そしてもう大天使はこの地を見放したのかもしれません。あの事件のせいで」
「あの事件?」
「記憶にございませんか? てっきりシャノン様ならご存知かと……」
シャノンがきょとんと首を傾げた時だった。
「おや、こんな所でお茶会でも開くのですか?」
薔薇のトンネルから青年が姿を現した。
「まあ、アルバーノ様。どうかなさいましたか」
ルシールが慌てたように立ち上がる。
「特に用はないさ。息抜きでこの場所に来ているだけです」
そう畏まるなと頭を下げようとしたルシールを手で制しながら、アルバーノがこちらに歩み寄ってくる。
そういえば昨日も薔薇の花束を贈ってくれたのはこの人だったし、花好きなのだろうか。
シャノンがそんなことをぼんやり考えていると、遠くの方から鐘の音が聞こえてきた。
「あら、いけない。もう休憩時間が終わってしまいますわ」
ルシールは慌てて鳥籠を持つと、アルバーノにお辞儀をしてその場を離れようとしていたのだが。
「君、待ってくれないか」
アルバーノに呼び止められ急ぎ足だったルシールが立ち止まる。
「彼女さえよければ、私がシャノン嬢を部屋まで送り届けましょう」
ルシールは鳥籠の中のシャノンを窺うように覗き込む。
シャノンは一瞬迷ったが、相手の情報を仕入れるチャンスでもあると思い頷いた。
「では、お願いします」
「ええ、責任を持って部屋まで送り届けますよ、花嫁殿」
シャノンが良いと言うなら自分が反対する理由はないと、ルシールはそっと鳥籠を元のテーブルに戻すともう一度会釈をして、今度こそ足早に花園を離れたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます