第8話 顔合わせの食事会
どんな人がいるのだろとシャノンは身構えて食堂へ向かった。
先に席に着いていたのはフィルという少年だった。
「あいつが王に一番近いとされている候補者だ。偽者だけど」
席に着く前、フィルに聞こえないようにそっとルーファスが教えてくれた。
ルーファスがテーブルを挟んでフィルの前の席に着くと、ルーファスの胸ポケットから顔を出したシャノンとフィルの目が合う。
フィルは一瞬驚いた顔を見せたが先にシャノンの噂も聞いていたのか、声を上げることなく平静さを取り戻し会釈をしてきた。
十三、四歳ほどに見える少年は物静かな雰囲気だった。
この大きな国を背負う王候補にはとても見えないけれど、それなのに王に一番近いとされているのだから、ただの少年ではないのだろう。
「もう一人の王候補は昼間も姿を見かけなかったけど、まだ戻ってきていないのか?」
ルーファスがフィルに話し掛ける。シャノンに接する時より爽やかな笑みを浮かべて。
「分かりませんが、時間にだらしない方ではないのでそろそろ」
来るのではないでしょうか、とフィルが言い終わる前にもう一人も姿を現した。
「すまない、私が最後だったようだね」
メガネをかけた知的そうな男性だった。ルーファスとフィルよりは年上に見えるので二十代後半ぐらいと予想される。
そうして彼の着席と同時に食事が運ばれ始める。
最後に現れた彼はフィルの隣の席に着き、シャノンは彼の向かいになるルーファスの隣にそっと下された。
椅子に座るともちろんテーブルに届かないので、申し訳ないがテーブルの上にちょこんと座らせてもらう。
そんなシャノンを物珍しそうに眺めながら、メガネの青年が言った。
「私の名はアルバーノと申します。以後お見知りおきを、花嫁殿」
「ど、どうも」
見つめられてどぎまぎしながらシャノンは会釈した。
(……アルバーノさん?)
聞き覚えがあるような……と首を傾げ、真っ赤な薔薇が頭に浮かんできた。
「あの、もしかしてお花をくださったのは」
「はい、私です。お気に召していただけましたか?」
「なんのことだ?」
二人の会話に首を傾げたルーファスは、ニコニコとしたままだったけれど、なんだか有無を言わせず答えろと言われている気がする。
「えっと、薔薇の花束を」
「特別な女性に薔薇の花を贈るのはごく自然なことでしょう」
シャノンの言葉に被せるように、アルバーノは底の見えない笑みでそう言った。
「ああ、そう言えば、出先から戻ってきたら部屋に薔薇が飾られていたな」
口元だけ笑っているルーファスの目は笑っていない気がした。まるで相手の出方を窺うように。けれどアルバーノも引き続き涼しげな笑みを浮かべている。
「人の者に手を出すなんてしてはだめですよ、アルバーノさん」
「それは同感だ。けれど、彼女は私の花嫁かもしれない」
驚きを隠せないシャノンとは対照的にルーファスとアルバーノのポーカーフェイスは崩れない。
フィルだけは興味がないのか、大人しい性格なのか、黙々とスープを啜っている。
「アナタの花嫁だなんて悪い冗談を」
「おや、だって嘘を吐いていないのなら、彼女は不死鳥に選ばれた娘なのでしょう」
アルバーノの視線が再びシャノンに向けられる。
「オレの花嫁を、あまり不躾な目でみないでください」
ルーファスはあくまで穏やかな口調のまま、シャノンを摘んで自分の胸ポケットの中にしまいこむ。
「けれど不死鳥の加護を持つ者は、歴代王の伴侶となることも多い」
ならばここにいる者は皆、自分が次期王なのだと信じここにいるのだから、彼女を自分の花嫁だと思うのも自然なことだとアルバーノは言う。
「フィル、あなたもそうは思いませんか?」
「……ボクには分かりません」
フィルはなにを思っているのかしばらくシャノンをみつめていたが、自分の意見は口にしない。
「まあ、いい。どう足掻こうと、本物は本物の元へとくるでしょうから」
(さっそく疑われている?)
もしかしたらこのどちらかが、部屋に鷹を送り込んできた犯人なのかもしれない。
そう思うと益々シャノンは居心地が悪くなり、食事会が早く終わることをただただ願いながら、黙々と食事をする男性陣の様子を窺っていたのだった。
それからは穏やか、と言えるかは分からないが当たり障りのない会話をして、顔合わせの食事会は終了した。
「ああくるとは予想外だった。まさか、オマエを自分の花嫁と言い出すとはな」
部屋に戻るとシャノンを鳥籠の中に戻し、ルーファスはドカッとベッドの上に腰を下ろした。
「ますます外は危険だから、オマエは絶対に籠の外に出ないように」
子供に言い聞かすようにルーファスは言う。
「出たくても、鍵が掛かっていて勝手に出られないです」
鳥籠は勝手に開けられないよう南京錠が付けられているのだから。
ルーファスは「そうだな」と悪びれも無く笑いながら、その鍵をチェーンに通しペンダントにして胸元にしまう。
(この人は、恐らくなにかを企んでる)
やっぱり今はまだ、彼の言っていること全てを心から信頼することなんて出来そうになかった。
けれど彼は一族の信用を取り戻すと意思の強い瞳で言っていた。その気持ちに嘘はないのだろう。
だからシャノンも努力してみようと思う。
目の前にいるこの人を信じる努力を。
「分かりました……今は籠の中で大人しくしてます」
シャノンの言葉にルーファスは満足げに頷いた。
「約束だ。もし破ったら……猛獣の餌箱にぶちこむから」
「ひえ!?」
えげつないことを言われシャノンは青ざめる。
「ははっ、冗談だ。そんなに怯えるなよ……オレの花嫁」
(全然笑えない冗談!! 目が本気だったもの!!)
この男はどこか謎めいていて、決して心の底はみせてくれそうにない。
言葉に出しては言わないけれど、シャノンは彼の底知れぬなにかを感じ取り警戒心を強めたのだった。
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