第7話 花束と予期せぬ訪問者

「ふぅ……ヒマ……とってもヒマ」


 一人部屋に残されたシャノンは、鳥籠の中にあるブランコに乗ってゆらゆらと揺れてみたり、鼻歌を歌ってみたりして時間を潰したが、そんな暇つぶしにも飽きてきた。


 その時、ガチャンと鍵が開いた音がしたのでルーファスが戻って来たのかと顔を上げたのだが。


「シャノン様宛にお花が届きましたので、飾らせていただいてよろしいでしょうか」

 先程顔合わせだけは済ませていたショートヘアーのメイドが、真っ赤な薔薇を花瓶に生けて持ってきたのだが、自分に花を贈ってくる人物に覚えが無い。


 というかメイドとはいえ、個人の部屋に鍵を開けて入ってくるものなのだろうかと少し戸惑い、もしかしたらルーファスに言われて薔薇を運んできてくれたのかもしれないと思ったのだが。


「それは、ルーファスからですか?」

「いいえ、これはアルバーノ様からの贈り物です」

 知らない名前だったが、アルバーノとは誰のことかと聞こうとしてシャノンはやめた。


(偉い方からの贈り物を返したら失礼になってしまうし、とりあえず受け取っておこう)


「……ありがとうございます」

「……ルーファス様はお出掛けですか?」

 なんてことないような問いだったけれど、念のため余計な事を言わないように「ええ」とだけ言い小さく頷く。


「一人でお暇ではないですか?」

 花を窓辺に置きながらこちらを気遣うように問われ「少しだけ」と素直に答えると、メイドはくすりと優しい笑みを浮かべている。


「馴れない部屋でお一人では、息が詰まってしまうでしょう」

「そ、そうですね……」

「今日はお天気も良いし、気分転換に空気の入れ替えでもしましょうか」


 メイドがほんの少しだけ窓を開けてくれると、微風が部屋に入り込み窓辺に飾られた薔薇の香が鳥籠の中まで運ばれてきた。

 少しだけ気持ちが和らぐ。


「なにかありましたら、お呼びください」

 メイドはそういうと、シャノンでもおせるようにベルを鳥籠の横にくっつけて置き、再びしっかりと鍵を掛け部屋を出て行った。


「あ、ありがとう……」

 ドアが閉まる寸前だったのでメイドに声が届いたかは分からないが、シャノンは籠の中からそう呟いていた。






 ルーファスはどこまで行ってしまったのか、それから暫くしてもまだ戻ってこない。

 もう夕方だが、なにかあったのだろうか。そんな不安が過ぎった。その時。


「な、なにっ!?」

 大きな影が窓に体当たりして部屋の中へと侵入してきた。

 よく見るとその影は鷹で、窓辺にとまりこちらを鋭い目付きで凝視している。

 こんな小さな身体では丸呑みされてしまうかもしれないと、シャノンは籠の中で震えた。


 鷹は大きく鋭い嘴を開き、威嚇されているような気がして益々身が竦む。そして。


「きゃあ!?」

 鋭い爪で鳥籠を引っかけ羽ばたこうと襲いかかる。シャノンは、このまま攫われてしまうのかと思ったのだが。


「人の花嫁を攫おうなんて、躾のなっていない鷹だな」

 間一髪で戻ってきたルーファスがコインを弾く。それが直撃した鷹は、鳴き声を上げすぐに窓の外へと逃げ帰っていった。


「チッ……誰の差し金だ」

 低く呟きルーファスは絨毯に転がる鳥籠からシャノンを摘み上げ、掌の上に乗せる。


「怪我は……人形は怪我なんてしないか」

「しませんけど……わたし、誰かに狙われているんですか?」

「そうだな」

 彼は頷く。不死鳥に選ばれた娘と聞けば、欲しがる輩もいるだろうと。


「狙われるのは想定内だけど、なんで窓が開いてたんだ?」

 部屋は密室にしたはずだがと、ルーファスは訝しげに窓へ視線を送る。

 メイドが開けて行ったと伝えたら、彼女が怒られてしまうのではないかと思いシャノンは口を噤んだ。


「施錠は意味がない、か……部屋に一人にしたのは間違いだったな。悪い」

「…………」

「周りは敵だらけのようだし、もう一人にはしないから」

 困惑したシャノンが思いのほかこちらを気遣い優しいルーファスの掌の上で固まっていると、部屋のドアがノックされる。


「失礼します。本日の夕食の準備が整いました。食堂へお越しくださいませ」

「ああ、すぐに行くよ」

 ルーファスが返事をするとメイドは会釈をして出て行った。


「他の王候補たちとの顔合わせになるだろう。少々危険もあるけど、オマエにはオレの花嫁として同席してもらう」


 今さっき敵だと教えられた王候補と食事をしなくてはならないなんて、シャノンは緊張で身を強張らせたが静かに頷いた。

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