第5話 国王候補に名乗りをあげる
「ここから先に入るには管理者許可がいる。少し待っていてくれ」
先程の騒ぎの収拾は部下に任せ、シャノンたちをここまで案内してくれた自警団の団長が、まずは一人で大きな門の中へと入っていった。
そこでようやく息を潜めていたシャノンは、カバーを捲って顔を出す。
「ルーファス、どういうことですか? 王候補ってなんのお話?」
「オレがいいって言うまで、勝手に出てくるの禁止」
指で籠の中へと押し込まれそうになったので、シャノンはなんとかその人差し指にしがみ付いた。
「だっていきなり花嫁になれとか、王候補とか話がおかしな流れになって」
「いいか、今日からオレはこの国の国王候補。オマエは王を守護するオレのつがい。不死鳥に選ばれた娘として振る舞うんだ」
「つがい……?」
シャノンが唖然としている隙に、ルーファスは再びシャノンを籠の中に押し込む。
「理解する必要はない。オマエは今日から暫く……オレの操り人形だ」
マスターと同じ顔で同じ声で言われると、なぜだか胸が苦しくなった。
彼の言うとおり自分はただの人形なのに。痛む心も考える頭もないはずなのに。
「お待たせした。中に入る許可がおりた。門番のもとまで案内する。ついて来い」
戻ってきた団長はそれだけ言うと歩き出す。
ルーファスは後に続き、細い通路から中へと招かれた。
しんと静まり返った白壁に白床、白い天井が続く道をこっそりカバーの隙間から覗き見したシャノンは、なんだか目がちかちかしてきた。
(いったいどういうこと?)
不死鳥に選ばれた娘になるんだ、なんて突然言われても意味が分からない。
「わたしはただの人形なのに」
ふと見上げた天井にはこの国の神話だろうか。立派な絵画が描かれていた。
冠を被った王が光を放つ杖を手に大天使と向き合っている絵や、羽を広げる不死鳥の絵。
それを見てふと「アルラジアス王国の不死鳥」という言葉が浮かんでくる。
「これは……」
天井に描かれたこの物語を自分は知っている、そう思った。
なぜだろう。遠い昔、聞いたことがある気がする。
もしかしたらマスターから教えてもらったのかもしれない……彼はシャノンを鳥籠の中に閉じ込めておく代わりに、沢山の物語を聞かせてくれた。シャノンが退屈しないようにと。
「大天使の加護を受けているこの大陸の中でもアルラジアス王国は特別で……」
歴代の王は血筋ではなく大天使に選ばれ、その証として特別な杖を授与され王座を受け継ぐ。
そして王となった者は任期の間、長寿を手に入れ黒雷から大陸を守る使命を担うのだ。
不死鳥に選ばれたパートナーと共に。
(つまりルーファスは自分が大天使に選ばれた王様だって言い張っているの!?)
言い伝えを思い出しぎょっとしたが、先程親子を救ったあの炎。あれがルーファスの力だというなら本当にそうなのかもしれない。
しかし納得しかけたところで、はっと気がつく。
(待って、でもわたしが不死鳥に選ばれた娘であることは絶対にありえない)
だって自分はお人形だ。腕や膝にはネジが入っているし、身体に傷が付く事はあっても血を流すことはない。これは紛れもない事実。
(やっぱりルーファスは嘘つき。でも、全部が嘘かは分からない)
彼はとんだペテン師なのか、それとも本物の王となる人物なのか。
気が付けばシャノンが一人で眉間に皺を寄せている間に広間に着いていて、ルーファスは相変わらず涼しい顔をしている。
重々しい白の扉が開かれ、目付きの悪い威圧的な年配の男性と大柄な青年が入ってきてもルーファスは動じない。
「貴様か、自分が選ばれし王だと言っておるのは」
目付きの悪い男性は、王無き今国を動かしている大臣の一人らしい。
「浄化の炎を使ったと聞きましたが」
「ええ。自分は大天使より、その力を授かりました」
マントを揺らし騎士の正装をした青年は『審査の門』を守る門番だそうだ。彼はちらりと鳥籠に視線を向け、しかしすぐにルーファスに告げた。
「ご存知だろうか。前国王が退いてから百年以上が過ぎ、何人もの偽者が自分こそ王だと審査の門へやってきたのを」
「ええ、知っています。けれど彼らは偽者だ。本物はオレなのだから」
「確かに殆どの者が門前払いを受けていたが……堕天使たちがネメシスと名乗る組織を成し始め大陸の平和を脅かすようになった今、決定打に欠けるが、王と呼べそうな者が二名だけ今現在審査の門の前に立ち試される権利を与えられている。その中の一人を、国民はすでに王になる者と認め始めておるのだよ。我々も然りじゃ」
大臣は今さら偽者が場を乱すなと言いたげだったが、ルーファスは毅然としていた。
「しかし誰も、大天使から杖を授与されていない。なぜなら、彼らも偽者なのだから」
「ほう……では、貴様ならすぐにでも杖を授与できると?」
大臣は不愉快そうに眉を顰めた。
「今は無理です」
ルーファスは籠のカバーを取り、シャノンを彼らの前に出し見せる。
突然のことに硬直したシャノンを見て、大臣はぎょっと目を見開いた。門番は態度を表に出す事はなくただ静かに見やる。
「こ、これはなんじゃ?」
「オレの花嫁、不死鳥に選ばれた娘です」
「しかし不死鳥の能力を持つ者が小人だとは聞いたことがない」
「ええ、これは彼女の本来の姿ではありません……突如現れた魔術師に襲撃され、こんな姿にされてしまったのです」
(わたしは元々この姿ですが……)
喉まで出掛かった言葉をなんとか堪える。
「大天使と不死鳥の加護を受けた者が揃わなければ杖は現れないでしょう。けれど、彼女は今不完全な状態だ。これでは杖の授与はできない」
大臣は訝しそうな顔をしていて、けれど門番は先程より前のめりにルーファスの言葉に耳を傾けている。
「彼女をこんな姿にしたのは、恐らく王の座を狙う偽者。オレはそれを暴き、彼女を元の姿に戻すためにここにきました」
なんて意志の強い眼差しをしているのだろう、とシャノンは関心した……全部嘘なのに、と。
門番は暫し唸り、顎に手を当て考え込んだ後……。
「いいでしょう。不死鳥の件は置いておいても、貴方が浄化の炎を使ったのは事実……貴方にも与えましょう。門の前に立つ権利を」
と、告げた。
だがしかし、大臣はすかさず「ちょっと待て」と声をあげる。
「勝手なことを言ってもらっては困る。そんなに王候補ばかり増やしては国民も混乱するじゃろう。これ以上は必要ない。すでにフィルでほぼ決まっている話だ」
そう訴える大臣だったが、ずっと感情を表に出さなかった門番がそこで初めて僅かに眉を顰めた。
「お言葉ですが大臣。この国の王を決める唯一無二の存在は大天使であり、国民の支持や大臣たちのお気持ちなど関係ありません」
「ッ……」
大臣は気色ばんだように顔を赤くさせたが、その言葉に言い返す事はなかった。
「他の大臣たちには、私の方から伝えておきます。新たな候補者が増えたと」
門番のその言葉で決まりのようだった。
だがしかしルーファスの正体は知らないが、シャノンが不死鳥に選ばれたという話は真っ赤な嘘。
そんな嘘をついて、これからなにをやろうとしているのか知らないけれど、シャノンはただただしれっとしているルーファスの顔を見上げ唖然とするしかなかった。
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