第2話 外の世界へ
「そんな目で見るなよ。一族の恥さらしに似ているなんて不快だ」
「一族の恥さらし? あの方は大陸一の魔術師ですよ」
「正確には大陸一の大罪を犯した魔術師だ」
「なっ、言い掛かりはよしてください!」
「……長いこと眠りについていた人形じゃ、なにも知らなくて当然か」
と言いつつ、なにも説明してくれることのないまま彼はシャノンを鳥籠に戻し持ち上げる。
「きゃあ」
鳥籠の中でひっくり返ったシャノンを気にすることなく、彼はシャノンがしまわれていた箱の中に入っていた一冊の本を手に取った。
「それ、触っちゃダメです。中には恐ろしい魔術が記されているので、開いてはいけないとマスターがいつも言っていました!」
慌てて止めたシャノンの言葉を「へー、そうなのか」と聞き流し、臆することなく彼は埃を被ったそれを開く。
シャノンはなにか起きてしまうと頭を抱えて蹲ったが、数ページを捲るとすぐに本は閉じられたようだった。
恐る恐る目を開けたが、なにも恐ろしいことは起きていない。
「っ――」
ただ、彼は急な眩暈に襲われたように一瞬ふらつきこめかみを押さえた。
(どうしたのかしら、突然。やっぱりマスターの魔術書を開いたりしたからその影響で……)
そう思ってシャノンは心配げに彼を見上げたが、しばし無言だった彼はもう一度本を見つめ、苦虫を嚙み潰したような顔をした後それをシャノンと共に持ち出すことにしたようだった。
「行くぞ」
と呟き彼は鳥籠を抱えカビ臭い物置から、光の射し込む出口へ歩き出す。
「ど、どこへ行く気ですか。困ります!」
格子を握りしめ慌てて抗議をしたが、ルーファスはこちらを向いてくれることすらなかった。
「わたしはマスターが迎えに来るまで、待っていなくてはいけないんです」
そう約束したのだ。けれどシャノンのそんな訴えをルーファスは軽く鼻で笑う。
「残念だったな、そんな約束の日は来ない。永遠にだ」
「な、なんでそんなこと」
戸惑うシャノンに彼はすぐ決定的な言葉を告げた。
「オマエのマスター、ダグラスは百年以上前に処刑されてるからな。大罪を犯して」
(そんな、嘘)
そう言い返したかったけれど、シャノンは力が抜けて膝を付き、声を発することすら出来なかった。
「そのせいで魔術師の名家だったオースティンは没落した。オマエがいた古びた別荘も老朽化から先日取り壊されもうない。オレはそんなダグラスの末裔として、別荘の中で見つかったガラクタの中から売れそうなものを選びに来たんだ」
シャノンはまだ状況が飲み込めないままで、ぐるぐると眩暈がしていた。
「そんな、はず、処刑なんて……マスターが大罪なんて犯すはずありません」
確かに彼は仄暗いなにかを抱えた目をよくしていたけれど……でも、才能に溢れ知的で愚かな事を犯すような人間じゃない。少なくともシャノンの知っている彼はそういう人物だったのだ。
「オマエが嘆こうと、これが現実だ」
ルーファスは容赦なくそう言い物置の外へ出た。
久しぶりに浴びた太陽の光が眩しすぎて、シャノンはぐっと目を閉じる。
物置のすぐ先には馬車が用意されており、中に乗り込むと彼は御者に行き先を告げ馬車はすぐに動き出した。
「ど、どこへ向かおうとしているの?」
「行き先なんて告げたところで、ずっと籠の中にいた人形のオマエじゃ分からないだろ」
確かに……しかし、そうは言われても、なにも教えられずの移動は不安だ。
ルーファスは籠を持ち上げそんなシャノンをまじまじと見つめてくる。
なぜかその目は、先ほどとは違いどこか同情的にも思えた。
だが、そんな目を向けられるとこれから良くないことでも起きるのかと、シャノンは胸がざわざわとして余計不安になってくる。
「もしかして……わたし、どこかに売られるの?」
自分が思いつく最悪の事態を想像しながら恐る恐る彼を見上げた。彼はシャノンを籠ごと隣にぽんっと置いて、ダグラスの魔術書を捲りながらそっけなく答える。
「……そうだと言ったらどうする?」
「いやです!」
自分は売られてなにをされるのか、想像しただけで恐ろしい。動き意思を持つ人形なんて、魔術が存在しているこの大陸でもかなり珍しい存在のはずだ。
なにかの実験材料にされたり、身体をバラバラに解体される可能性だってある。
そうしたらマスターのいない今、自分はもう元には戻れないだろう。
「わたし、あなたの身の回りのお世話ならできます。ですから、どうか人身売買はしないでください」
「人身売買じゃないだろ、オマエただの人形だし」
「そんなこと言わずにっ!」
「はぁ、うるさい。少し黙れ……今、オレも考えてるんだ。この先どうするべきかって」
煩わしそうな顔をしてルーファスはこちらに指先を向けてきた。そして。
「少し眠っていろ。命令だ」
「っ!?」
シャノンの額を指先で小突いた。
その瞬間シャノンは後ろに倒れこみ、思考が停止して眠ってしまったのだった。
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