一章
第1話 目覚め
歩くと床がミシミシと音を立てる昼間でも薄暗い物置で、青年がガラクタを物色している。
任務で上げた功績の褒美に好きなものを持っていけと、親戚の男に与えられたのがこのガラクタの山だった。
なんでも先日手放した屋敷の隠し部屋で発掘された魔術師ダグラスの品々らしい。
正直いらないものだらけだった。なんとか売り飛ばせそうなものを漁っていると、鍵のかけられた箱が目に留まる。針金を軽くいじれば難なく施錠が外された。
ギィ、ギィギィ――
重たい蓋を持ち上げ、なかに金品でも入っていれば儲けものだと思っていた青年は、その中身が鳥籠と古びた書籍だけだったことに落胆する。
「なんだ、これは」
持ち上げた鳥籠の中に入っていたのは、まるで本物のような髪と肌質をした掌サイズの人形。
胸元まで伸びるストロベリーブロンドの髪に質素な淡い色のワンピースを着せられた人形は、飾りっ気もないのにまるでガラクタの中に隠されていた可憐な眠り姫のようだ。
「っ――」
その人形を見た瞬間、彼は全身に稲妻が奔るような衝撃を覚え息を飲んだのだった。
◇◇◇◇◇
優しい羽に包まれて、守られるように木漏れ日の中を漂い続ける。
そんな夢を見ていた気がする。
もうずっとここにいよう。だって身動きが取れないもの。
彼が居ないと彼の魔力がないと、わたしは動くこともできないただのお人形。
――本当にそれでいいの?
優しい指先がストロベリーブロンドの髪を撫で頬に触れて、シャノンの全身に温かくて強いなにかが流し込まれてくるような感覚がした。
身動ぎをしながら薄っすらと目を開ける。
誰かの掌の上に乗せられていることに気がつき身体を起こすと、彼女のピンクサファイヤを埋め込んだように美しい瞳に映し出されたのは、良く知る整った顔立ちの青年だった。
シャノンの表情が一気に明るくなる。
「マスター、お帰りなさい!」
どれぐらいの間、自分が眠っていたのか判断できなかったがマスターは歳をとっている風もなく、むしろ少し若返っているように見える。だからそれ程の日数は経っていないのかもしれないと思った。
もしかしたらもう二度と会えないと、あの時感じた不安が一気に和らいで胸をなで下ろす。しかし。
「本当に動いた……」
自分に向けられるマスターの眼差しは、まるで別人のように冷たかった。
「腕を回せ」
突然の命令に戸惑いつつシャノンは腕を回してみせる。
「次は掌の上で回れ」
言われた通り立ち上がりマスターの掌の上でくるくると回ってみせると、スカートがふわりと膨らんだ。
まるで品定めするような視線に、シャノンは彼が別人のようだと警戒しはじめる。
しかし美しいアイスブルーの瞳も赤髪も同じ。端正な面差しも声音も間違いなくマスターで、変化といえばメガネをかけていないことぐらいだ。
そして自分を魔力で動かせるのは彼ぐらいしかいないはず。
この大陸一の魔術師と謳われるダグラス・オースティンしか。
「……これは闇市のやつらにみつかれば、かなりの高値で売られていたな」
聞き捨てならない言葉を聞いた気がした。
しかしまさか、マスターがそんな事を言うなんて聞き間違いに違いないと思い込もうとする前に、指先で顎を持ち上げられシャノンは強制的に彼を見上げる。
まるでなにを考えているのか読めない冷たい眼差しに、シャノンは口をパクパクしながら青ざめる。
こちらを値踏みされているような気がした。やはり自分を売り飛ばすつもりなのか。
「なんだよ、怯えた顔して。オレが怖いか――のくせに」
彼は片手にシャノンを乗せたままなにか呟く。最後の言葉は聞き取れなかったが、こちらに好意的じゃないことは窺えた。
「さすが大陸一の魔術師の名をほしいままにしていた男の作品だな」
本人が言うにはおかしな言い回しを不審に思いシャノンは眉を顰めた。
「あなた……マスターじゃない?」
「オマエがさっきから呼んでいるマスターが、ダグラス・オースティンのことなら……別人だ。オレの名はルーファス・オースティン」
シャノンは呆然として固まった。
「なんだよ、その反応。オレがダグラスに似ているとでも?」
「ええ、それはもう……」
だが先ほどから違和感を覚えるほどには違いがある。冷たい雰囲気を持ちつつもシャノンに対しては温かみのあったマスターと違い、この男は態度も冷たく口にするのは不穏な言葉ばかりだ。
ダグラスが双子だったなんて話、聞いたことはないけれど。これはいったいどういうことなのか。
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