失われた王と鳥籠の中の花嫁
桜月ことは
プロローグ
「いいかシャノン。外の世界はとても危険だ」
掌に乗せられ優しく指先で頬を撫でられシャノンは目を細めた。
「だから外に出たいなんて思ってはいけない。この籠の外に出てはいけない。お前はずっと、僕とともにいるんだ」
そっと摘まれ鳥籠の中に戻される。彼女は大人しく頷きながら彼を見上げた。
窓の外で雷が落ちる。亀裂がいくつも空に奔ったように見える漆黒の雷だ。
この大陸ではよくあること。二人とも無言で暫くそれを見つめていた。
やがてダンダンと激しく玄関の戸を叩く音がして、シャノンは急に不安を覚える。
彼の眉が僅かに顰められたことに気付いたからだ。
「マスター?」
彼は無言のまま鳥籠を抱きしめ、物音をたてないように隠し扉から地下へと駆け下りる。
鳥籠が大きく揺れて、シャノンは籠の中でひっくり返りながらも息を潜め黙り込んでいた。
これからなにかよくないことが起きるのだと、そんな予感がしている。
やがて着いたのは地下の一番奥にある隠れ部屋で
隅に置かれた箱の中に籠ごと入れられた。
「ここで、いい子にしているんだ」
それだけ言ってマスターは、蓋をしようとする。
「いつまでですか?」
「お前が……次に目覚める時まで」
「次に……」
途端にシャノンは急激な眠気に襲われ籠の中で膝をつく。
「いい子で眠っているんだ」
その声を聞くと眠気で意識が朦朧として、もう声も発することができなかった。
「お前を、誰にも渡さない」
どこか狂気染みていて、けれど悲しげな瞳の彼になにか声を掛けたいのに。
(マスター、なんで泣きそうな顔をしているの?)
「すまなかった、シャノン……僕は」
マスターがなにか言っている。けれどもう、その言葉すら認識できず。
(だめ、今寝てはダメな気がする……でも)
――シャノン、眠れ。
(あなたの命令には逆らえない。わたしはあなたのお人形だから)
それじゃだめだと心の奥で自分の声が聞こえた気がした。
けれどきっと気のせいだ。自分は人形、マスターがいなければ動けない、心などないただの人形。
(マスター、わたし……)
自分はなにを思っていたのだろう。
なにを願っていたのだろう……もう、分からない。思い出せない。
そして彼女は暗闇の中に沈むように意識を手放したのだった。
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