第4話
「結」
完全な不意打ちだった。久しぶりに向き合うその人の姿に足が竦む。
お姉ちゃんやあたしより20センチも身長が高いその人は、背筋をぴんと伸ばしてあたしの真正面に立った。
「なに……こんな時間に人んちの前でって、きもいんだけど」
声が震える。久しぶりだというのにこんな悪態しかつけない。8歳も年下の高校生にそんなこと言われて気分がいいはずがない。
だけどその人は、ふっと笑った。
「そうだな。悪い」
「……あ、謝らないでよ」
「いや、まあ、お前が正しいだろ」
「……」
いつから待っていたんだろう。もう12月も半ばだ、こんなに寒い中、ずっと立っていたんだろうか。マフラーの中で首がじっとり、汗をかく。
「結」
いっとう優しい声だ。この人があたしたちを呼ぶときの声は、いつもいつもあたたかい。知っている。この人が大事にしているのはお姉ちゃんだけじゃない。紡もお兄ちゃんもお母さんも、こんなあたしのことだって大事にしてくれてるんだって、ずっと前から知っていた。
「本当は、プロポーズしたのはもっと前だったんだ」
「……え」
想定外の言葉に目を見開く。顔を上げてその人を真っすぐ見つめれば、出会った時よりずっとずっと大人になったその人があたしを見つめ返していた。
「……でも、あゆみが。結と紡が卒業するまで待っててくれって言った」
息が漏れる。真っ白に染まった視界。目頭がぐっと、熱くなる。
「勘違いすんなよ。お前らのせいって責めてるわけじゃないからな。ただ、あゆみがそうしたいならそれがいいって思った」
わかってるよ、とは言えなかった。この人があたしたちを責めるわけがないってこと、ちゃんとわかってた。
「あゆみの一番はいつだってお前らだよ。それわかっててあいつのこと好きになった」
「……」
「……認めろとか、祝福しろとか、そういうことを言いたいわけじゃねえんだ。ただ、お前とあゆみが辛そうにしてるのが、俺は悲しい」
ぼろぼろと涙が溢れて止まらない。冬の夜は寒いのに、身体はどうしようもないくらい熱かった。
その人が――隼翔くんが、笑う。
ああ、お姉ちゃんはこの笑顔を好きになったのかな、なんて思う。
「隼翔くん」
久しぶりに呼んだから上手く呼べなかった。小さな小さな、消えてしまいそうな声になった。けれど隼翔くんにはちゃんと届いたらしくて、「うん」と頷く。
「ごめん」
絞りだしたそれを、隼翔くんは、ただ笑って頷いて受け止めてくれた。
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