第九章 妨害者たち


工事が順調に進むにつれて、妨害も激しくなった。


最初に問題が起きたのは、資材の供給だった。


「誠一さん、残滓が——届きません」


リーナが青い顔で報告してきた。


「何?」


「隣の都市から輸送中の荷車が——襲われたようです。魔物に」


「魔物?」


誠一は眉をひそめた。


この区間は、比較的安全な地域だ。魔物の出没は稀なはずだ。


「ガルド、調べろ」


「了解」


数日後、ガルドが報告してきた。


「襲撃は——計画的でした」


「どういうことだ」


「魔物を操っていた者がいます。痕跡が残っていました」


誠一の表情が険しくなった。


「誰かが——俺たちを妨害しようとしている」


「そのようです」


「心当たりは——ある」


リーナが言った。


「第一王子派——です」


第一王子ゲオルク。彼は、第二王子アルヴィンの道路整備計画に反対していた。「道路に金をかけるくらいなら、軍事に投資すべきだ」というのが彼の主張だ。


「やはりか」


誠一は歯噛みした。


「証拠は——ないんですよね」


「ない。魔物を操った者は、姿を消している」


「ならば——対策するしかない」


誠一は言った。


「輸送路の警備を強化する。それと——複数のルートを確保しろ。一箇所がやられても、他から補給できるようにする」


「了解です」


資材供給の問題は、時間をかけて解決された。しかし、妨害は止まなかった。




次に問題が起きたのは、労働者のストライキだった。


ある朝、現場に出向いた誠一を待っていたのは、座り込む労働者たちの姿だった。


「何があった」


「賃金が足りないと言っています」


リーナが困惑した顔で言った。


「賃金——契約通りに払っているはずだ」


「はい。しかし——神殿の者が来て、『道路工事は邪法だ。関わった者は地獄に落ちる』と言ったそうです」


「何だと?」


誠一の目が、怒りで光った。


座り込む労働者たちに近づく。彼らは怯えた顔で誠一を見上げた。


「俺は——神を信じない」


誠一は静かに言った。


「俺が信じるのは技術だ。道路を作る技術。人々の暮らしを良くする技術」


労働者たちは黙っている。


「お前たちが怖いのは、地獄ではない。神殿からの報復だろう」


「……」


「俺が——守る」


誠一は宣言した。


「お前たちを、神殿から守る。第二王子殿下の後ろ盾がある。神殿には手を出させない」


沈黙が流れた。


やがて、一人の労働者が立ち上がった。


「……信じていいんですか」


「ああ」


「本当に——守ってくれるんですか」


「約束する」


労働者たちは、顔を見合わせた。


そして——一人、また一人と立ち上がり始めた。


「……分かりました。働きます」


「ありがとう」


誠一は頭を下げた。


ストライキは——収束した。しかし、神殿との対立は深まった。




その夜、宿屋に戻った誠一を、意外な来訪者が待っていた。


「黒田誠一殿ですね」


白い法衣を着た神官だった。以前、現場に来た者とは別人だ。年齢は五十代くらい、穏やかな表情をしている。


「何の用だ」


誠一は警戒しながら尋ねた。


「私はマルクス。神殿の——いわゆる穏健派の者です」


「穏健派?」


「はい。神殿内にも、様々な立場があります。道路工事を邪法と呼ぶ者もいれば——あなたの技術を認める者もいます」


誠一は眉を上げた。


「認める——と言うのか」


「はい。道路が良くなれば、人々の暮らしは楽になります。それは——神の御心にも適うことです」


「……」


「ただし——」


マルクスは言葉を選ぶように、続けた。


「神殿内の強硬派を抑えるためには、あなたにも——歩み寄りが必要です」


「歩み寄り?」


「道路を作る際に、神殿への謝意を示す儀式を行う——といったことです。形式的なものですが、強硬派を黙らせるには効果があります」


誠一は考え込んだ。


本音を言えば、そんな形式的なことはやりたくない。しかし——


「……分かった」


実利を取るべきだ。


「儀式をやろう。ただし、工事の邪魔にならない範囲でだ」


「十分です」


マルクスは微笑んだ。


「ありがとうございます。これで——強硬派を抑えられます」


「あんたは——なぜ俺の味方をする」


「味方——というほどではありません。ただ——」


マルクスは遠い目をした。


「私も昔、道路の悪さで家族を亡くしました。馬車が転覆して——妻と子供が」


「……」


「あなたの技術が広まれば、同じ悲劇を防げるかもしれません。だから——」


誠一は黙って頷いた。


「——ありがとう。感謝する」


「いえ」


マルクスは立ち上がった。


「道路を——完成させてください。私は、神殿の中から援護します」


そう言って、神官は去っていった。


敵ばかりではない。味方もいる。


誠一は、改めてそう実感した。

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アスファルトの魔術師 ~異世界道路整備録~ もしもノベリスト @moshimo_novelist

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