第七章 チーム編成


第一工区の成功は、想像以上の反響を呼んだ。


噂は王都を越えて広がり、地方の貴族や商人たちも舗装道路の話を耳にするようになった。実際に舗装区間を通過した者たちは、その快適さに驚き、周囲に吹聴した。


「泥がない……!」


「馬車が揺れない……!」


「こんな道路、見たことがない……!」


反響は——賛否両論だった。


多くの者は舗装道路に感嘆し、支持を表明した。しかし、一部の者は依然として反発していた。


「自然を冒涜する邪法だ」——神殿勢力


「我々の仕事を奪うつもりか」——荷運び人夫ギルド


「馬車の修理需要が減る」——車大工組合


既得権益との闘いは続いていた。しかし、結果が徐々に彼らを黙らせ始めていた。


そして——


「黒田誠一殿」


ある日、見知らぬ男が現場を訪れた。三十代半ばの、精悍な顔立ちの男だ。


「何者だ」


誠一が尋ねると、男は軽く頭を下げた。


「私はガルド・ヴォルフハルト。元傭兵です」


「元傭兵……?」


「はい。第二王子殿下からの紹介で参りました。現場の警備と——人夫頭の仕事があると聞いて」


土石鑑定を発動する。


【ガルド・ヴォルフハルト 人間 年齢:35歳 職業:元傭兵・現無職 戦闘能力:剣術(上級)・指揮(中級) 気質:実直、寡黙、忠誠心強い】


戦闘能力と指揮能力——現場には、まさに必要な人材だ。


「なぜ傭兵を辞めた」


「戦場で足を痛めまして。走ることができなくなりました」


ガルドは苦笑した。


「走れない傭兵は、使い物になりませんので」


「足は——今はどうだ」


「歩くには問題ありません。ただ、走るのは——少し」


誠一は頷いた。


「いいだろう。採用だ」


「ありがとうございます」


ガルドが深々と頭を下げた。


「明日から来い。朝礼は日の出と同時だ。遅れるな」


「了解しました」


こうして、チームにまた一人、頼れる仲間が加わった。




チームは日々成長していた。


誠一の指導のもと、土魔法使いたちは路盤整備の技術を習得し、合材製造の作業員たちは効率的な動きを身につけていった。


「誠一さん、次の工区の準備が整いました」


リーナが報告してきた。


「ああ。明日から第二工区に着手する」


第二工区は、三十キロ地点から六十キロ地点まで。第一工区と同じく三十キロの区間だ。しかし、地形は複雑になる。丘陵地帯を通過するため、勾配の調整が必要になる。


「ベルン殿、丘の切り土は可能か」


老人は頷いた。


「可能じゃ。ただ、時間がかかる」


「どれくらいだ」


「一キロあたり——三日は見てくれ」


「長いな……」


「丘を貫通させるより、迂回した方が早いかもしれん」


「いや、迂回は駄目だ。距離が延びる」


誠一は地図を睨んだ。


舗装道路の価値は、距離と速度にある。迂回すれば、その分だけ移動時間が増える。本末転倒だ。


「切り土でいく。三日かかるなら三日かける」


「分かった」


工事は続いた。


第二工区に入ると、予想通り難所が次々と現れた。丘陵地帯の切り土、河川の横断、軟弱地盤の改良——日本の常識が通用しない場面も多かった。


しかし、チームは着実に前進した。


ベルンの土魔法は、日々精度を増していた。グラムのゴーレムは、追加で製造されたローラー・ゴーレムと合わせて、二台体制になった。エマの水魔法は、合材の養生に不可欠な存在となっていた。


そして——リーナ。


彼女は現場の管理、資材の調達、対外交渉——あらゆる事務作業を一手に引き受けていた。誠一が技術に集中できるのは、リーナのおかげだった。


「リーナ、次の残滓の入荷はいつだ」


「三日後です。隣の都市から輸送中です」


「間に合うか」


「ギリギリですが——間に合わせます」


「頼んだ」


誠一とリーナの息は、日々合っていった。


二人は互いを信頼し、補い合い、チームを牽引していた。


「誠一さん」


ある夜、作業が終わった後、リーナが声をかけてきた。


「何だ」


「少し——お話があるのですが」


二人は現場の端に腰を下ろした。星空が広がり、二つの月が輝いている。


「私は——」


リーナは言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。


「昔、土木魔法の研究をしていました。道路の改良について、様々なアイデアを考えていました」


「ああ、聞いた」


「しかし——誰も、私の話を聞いてくれませんでした。馬鹿げていると言われ、笑われ、無視されました。家は没落し、研究資金は打ち切られ——」


「……」


「もう、諦めていました。道路のことなど、考えないようにしていました。しかし——」


リーナは誠一を見つめた。


「あなたが現れました」


「俺が?」


「はい。私の研究を——道路の重要性を理解してくれる人が。しかも、私が想像もしなかった技術を持っている人が」


リーナの目に、涙が光った。


「ずっと——待っていたんです。理解してくれる人を」


誠一は黙って聞いていた。


「だから——」


リーナは言った。


「あなたと一緒に、道路を作りたいんです。ずっと」


沈黙が流れた。


誠一は空を見上げた。二つの月が、静かに輝いている。


「俺は——」


ゆっくりと言葉を選ぶ。


「道路を作るために生きてきた。前の世界でも、この世界でも。それしか——できない男だ」


「分かっています」


「一緒にいても——つまらないぞ。道路の話しかしない」


「構いません」


リーナは微笑んだ。


「私も——道路の話しかしませんから」


誠一は——笑った。


「……そうか」


「はい」


「なら——よろしく頼む」


「こちらこそ」


二人は、静かに肩を並べた。


星空の下、舗装された道路が、月明かりに照らされて黒く輝いていた。

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