下ネタがお好きな閻魔大王(3)

 地獄の中枢―――


 閻魔城の最上階で言い合っている、最高権力者たる二人にもついに別れの時が来た。



「ここが閻魔の玉座だ! 突撃ぃーっ!」



 厳重な閻魔の玉座を、さらに厳重たらしめる鋼鉄の扉が、天界の軍勢によって破られたのである。


 コンサートホールみたいな広さの閻魔の玉座―――バリアフリーに対応した(?)高さの扉が、今音を立てて破壊された。


 轟音が鳴り響き、閻魔と十王筆頭ジャーニは発生した暴風に吹き飛ばされそうになる。しかし、閻魔の能力によって何とか事なきを得た。



「うわっ……」


「ジャーニ掴まれっ! 壁に打ちつけられるぞっ!」



 いくらかの時間―――秒数にしてみれば、10秒と無かったのであろう―――が流れ、発生した土煙の中から華奢な人影が現れた。


 頭上には、輝く天使のリング。純白の羽衣を纏い、ちらりと見える手足はか細く、雪のように白い―――


 金の髪の毛含む、その身体の周囲には、輪郭を描くようにして、一際輝く金のオーラが薄く張り巡らされている。


 天界を支配し、死んだ人間の魂を司る神。


 そしてその権限を悪用し―――人間の魂のカタチを許可無く改造する痴れ者……


 地獄と天界とを制御する最高神さえも、迂闊に手を出すことができない、その大天使の名は―――


 ―――ガブリエル・ソワトリーヌだ。



「うわっクソ天使が来た」


「ふふ、来ますよぉ〜。何たって、十王不在の今―――それを利用しない手はありませんからねぇ〜? 閻魔大王総統閣下様?」


「相変わらず気持ちの悪いトーンで話すんだなぁガブリエルぅ」


「あらら。人間さんたちには好評なんですけどねぇ。ある人間さんいわく『天使のラッパ』『そよ風の囁き』それから―――」


「今はそんなの聞いてねーよ。もう喋んな」



 閻魔の視線が、ガブリエルを強く捉える。全面に押し出していた大天使・ガブリエルの微笑みが、一瞬だけわずかに曇った。閻魔の凍てつく視線に、気圧されたからだ。



「……へぇ。イイ顔をするんですねぇ? 威嚇だけは人間界のネコちゃんみたいに上手なのは分かりました。でも単身の貴方に何ができるんです? 十王の皆様も、とうにされているんでしょう?」


「分解とは、よく言ったもんだな。アイツらの魂の組成を変え―――破壊して人間界へのは、ほかでもないお前だろ?」


「―――ああ、失礼しました〜。私直々に手を下したワケではなく、あくまでも部下たちが片手間でしたことなので〜」



 閻魔は、静かな怒りをその身にたたえた。しかしながら、同胞を―――地獄の運営に伴って苦楽をともにした仲間たちを、事実上殺された怒りを『ガブリエルへの攻撃』として昇華するのはナンセンスだ。


 何せ、多分勝てない。閻魔と言えど、十王無しでは無力だ。



「そろそろ―――貴方も消しますか」



 ガブリエルの声色が―――トーンが、一段がくんと下がった。先ほどまでの優しげで慈悲深いそれとは大違いで、今度は閻魔が一歩後退りする番になった。だが、焦燥は見せずに一言。



「―――お前、将棋やったことないタイプ?」



 閻魔からの突然の問いに、ガブリエルは眉をぴくりと動かした。問いの意味を図りかねたからだ。



「―――はぁ?」



 ガブリエルを取り囲むようにして配置された上級天使たちが、一斉に構える。



「あのさぁ……玉獲るまでは、安心しちゃあ駄目だぜ?」


「はっ……何かと思えば、死を前にした負け犬の遠吠えでしたか〜。どっちにしろ、八方塞がりになった玉はだけですよね〜」


「さぁ……どうだろう」



 またも眉をぴくりと動かしたガブリエルは、不快そうな面持ちで閻魔を見つめた。そして、堰を切ったように百を超える部下たちへ一声。



「殺しなさい」

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