第5話 三つ子姉妹はハーレム希望

「全員彼女って……どういうこと?」


 当然の疑問が、俺の口から出る。


「これまでの経緯を、説明しますね」

 

 長女のさくがそう切り出すと。


「実はわたしたち、三人ともそれぞれ同時期に、別々でみきとと出会ったんだよね」

「それで、三人ともみきとくんを好きになったんだー」


 あやらんが続けた。


「これは実に難しい問題です。三人で同じ人を好きになったのに、相手は一人しかいませんから」

「わたしたちとしては同じ人と付き合うのも歓迎だけど……みきとにいきなり「三つ子全員と付き合ってほしい」って告白しても困らせちゃうだろうし」


 彩の言葉を聞いて、俺は思う。

 なるほど、それは困るな、と。

 実際に今、同じような状況で困っているし。


「みきとくんって、クズぶってるけど真面目だもんねえ」


 蘭が何やら微笑ましげに俺を見た。

 余計なお世話だ。


「ですが幸いなことに、みきと先輩は私たちが三つ子だとは思っていませんでしたから」

「うり二つ……厳密には三つかもしれないけど、そっくりな容姿を生かして、みきとの前で同一人物を演じることにしたんだよ」

「みきとくんとデートするときは入れ替わりの交代制、その日に会った出来事を、必ず共有すると決めてね」


 その日の出来事を必ず共有。


「それってつまり……」

「昨日のことは、三人全員知ってるよ……へへ」


 蘭がそう言うと、三人とも同じような照れ方をした。

 かわいい彼女と同じ照れ顔が、目の前に三つある。

 なんとも言えない感覚だ。


「ともあれ、そうして一人の遠城寺サラとしてみきと先輩と会って、仲良くなっていった結果……」

「みきとは遠城寺サラわたしたちと、をシたくなるくらいベタ惚れになった、ってことだね」


 彩がそう締めくくる。

 俺がまず、思ったのは。


「三つ子だなんて、全然気づかなかった……同一人物のフリなんて、よくできたね」

「一卵性三胎ですからね。見た目は全員同じですし」

「一卵性三胎っていうのは、一卵性双生児の三つ子版だよー」


 咲と蘭がわかりやすい説明をしてくれた。


「なるほど……確かに見た目は同じだからな」

「それにママが女優だからね。演技力が遺伝したっぽいよ」


 彩が笑顔で補足する。


(そういうものなのか……?)


 と俺は若干疑問を抱きつつも。


「とはいえ、思い返すとたまに違和感はあったな」

「違和感って?」

「時々、俺のイメージするサラと少し違う言動があったというか……思えばあれが、三つ子それぞれの個性だったんだろうな」


 三つ子が一人の人物を演じているなんて想像していなかったから、気になってもすぐに流してしまっていたけど。


「ふふ……なんとなくでも、気づいてくれたんですね」

「演技が完璧じゃなかったのはちょっと悔しいけど……それ以上に嬉しいかも」

「さすが私たちのみきとくんだー」


 俺の感想を聞いて、三つ子は喜んでいた。

 気づかれたら気づかれたで、嬉しいらしい。

 三つ子心は難しいな。


「とにかく、そうして私たちは順調に愛を育んでいき、めでたく付き合うことができたわけです」

「この関係がいつまで続くかなー……って思いながらも幸せな日々を過ごしていたけど」

「ついにみきとくんに三つ子だとバレちゃって今に至る、ってことだね」


 ここまでの話をまとめると。

 俺は別人だと気づかずに三つ子とそれぞれの場所で出会い、惚れさせて。

 その後も同一人物だと思い込んだまま……というよりは思い込まされたまま仲良くなり、付き合って。

 交代制で俺の彼女であるを演じていた三つ子のうち誰かと初体験を遂げて。

 昨日、めでたく童貞を卒業した、と。


(一人の女の子と付き合っていると思ったら実は三人だったって……)


 一応騙されていたことにはなる。

 けど、怒りはわいてこない。

 むしろ、三つ子全員から好かれるってすごいな、俺。

 

 なんて、浮かれてばかりもいられない。

 この状況をなんとかしないと。


「それで……俺はどうしたらいい?」


 俺の問いに対し、三つ子は顔を見合わせてから。


「私たちは、全員みきと先輩が好きです」

「だからみきとは全員と付き合って、独占しちゃっていいよ?」

「いや、さすがにそれは……どうなんだ?」


 三人と付き合うなんて、両手に花では収まっていない。


「みきとくんは知らないかもしれないけど……私たちこれでも、第一高校じゃすごーくモテるんだよ?」


 蘭が得意げに胸を張った。


「さくちゃんは有名な写真の賞を何個も受賞してるし」

「あやちゃんは雑誌のモデルやってるし」

「らんちゃんは剣道部で全国大会に出場したし」


 三つ子はお互いを褒め合って。


「自分たちで言うのもおかしな話ですが……そこそこ有名人だと思います」

「毎週三つ子の誰かが男子から告白されてるからねー。みきと以外は興味ないから、全部お断りしてるけど」

「そんな三人全員を惚れさせて付き合うなんて、みきとくんにとっては男の夢! みたいな話じゃない?」


 自分たちのことを、俺にアピールしてくる。


「確かにそうかもしれないけど……」


 端的に言えば、三つ子ハーレム。

 なるほど、男の夢かもしれないけど。

 まだ、現実味のない話だ。


「もっとも、みきと先輩が一人だけ選びたいというなら、それでも構いません」

「うん……覚悟はしてる」

「……本当はいやだけどね?」


 三つ子にとって、誰か一人と俺が付き合うというのは妥協案のようだ。

 案を提示しつつ悲しげな目をする三人を見ていると、思わず全員抱きしめたくなってしまうが。

 その前に、確認することがある。


「ところで……俺が告白したのは? 初めてキスしたのは? 昨日、初めて……シたのは?」


 一体、誰だったんだ。

 もしかして、それぞれ違う相手に、していたりするんだろうか。


「それは……私たちが三つ子だと知ったうえで、改めて一人一人と向き合って確かめてください」


 咲は、答えを教えてくれなかった。


「お試しで付き合ってみて、相性をじっくり確かめてから一人選ぶ……とかも歓迎だよ?」


 彩は、答えの探し方を意味ありげに教えてくれた。


「わー、あやちゃん大胆だ……!」


 蘭は、彩の言葉を完全に「体の相性」だと解釈して頬を赤くしていた。


「向き合うのは大事だと思うけど……お試しで相性を試すのはクズ過ぎるのでは?」

「みきとって、いつもクズを自称してるんだから問題ないでしょ」

「にしても、これは度が過ぎているというか……」


 さすがに今この場で、そんな判断はできない。

 俺の煮え切らない態度に、待ちきれなくなったのか。


「みきと先輩と私たちは、後に引けない関係になったんですからね!」

「……後に引けない関係って?」


 咲に言われて、俺はその意味を聞く。


「「「私たちの誰かで童貞捨てたんだから、全員分の責任取ってね?」」」


 三つ子は口を揃えて俺に言った。


 ……どうやら俺は、三つ子姉妹から逃げられないらしい。

 いやもう。

 本当に、どうしよう。 

 なんて悩みつつも。


(仮に三人を同時に相手にすることになったら、俺の体力って保つのか……?)


 つい、そんなことを考えてしまうのだった。




◇◇◇


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