第4話 私たち、全員きみの彼女です

 サラに連絡して、放課後に会う約束をした。


(今日が始業式で良かった……)


 通常授業だったらもっと長い間、悶々と過ごす羽目になっていた。


 俺が向かったのは、よくサラとの待ち合わせに使う場所。

 駅から学校への道とは少し外れた場所にある、いつも人のいない小さな公園だ。

 

 サラは絹糸のようにさらさらした長い銀髪をはためかせながら、ブランコに座って待っていた。


「お待たせ」

「んー、私も今来たところだよ」


 サラは笑顔で立ち上がった。


「急に呼び出してごめん」

「私はみきとくんと会えてうれしいよー。毎日でも呼び出してオッケーだからね」


 サラは嬉しいことを言ってくるが。

 今は喜ぶより優先することがある。


「さっそくだけど、サラに聞きたいことがあるんだ」

「え、なになにー」

「サラって、三つ子なの?」


 俺は単刀直入に尋ねる。


「あー……ついにバレちゃった」


 サラはあっさり白状した。

 何か、悪いことをしているみたいな顔なのは、なぜだろう。

 別に、姉妹がいることくらい、何の問題でもないのに。


「今日、遠城寺おんじょうじサラは同姓同名の三つ子姉妹、なんて話を聞いたけど、本当だったのか」

「うん。私たち、実は三つ子姉妹なんだ。しかもみんな同じ名前って、すごいよね」


 サラは楽しげにうなずく。


「それで、俺と付き合っているサラは……三つ子のうち、どのサラなんだ?」

「えー、それについては話せば長いと言いますか」


 何やら、曖昧な答えだ。


「……どういうこと?」

「実は、全員……や、これは揃ってから話した方がいいかな」

「はい?」

「ねえ、みきとくん。とりあえず、みきとくんのお家いこ?」

「あ、ああ……それは構わないけど」


 俺のかわいい彼女、遠城寺サラがよく分からないことを漏らした。

 全員?



 俺たちは詳しい話をするため、場所を移した。

 俺の家だ。

 俺は学校から一駅ほど離れた場所にある1LDKのマンションで一人暮らししている。


「わー、ここがみきとくんのおうち……」


 俺の家に足を踏み入れると、サラが感嘆の声を漏らしていた。

 俺の認識だと、サラはこの部屋に来たことがあるはず。

 それなのに、初見みたいな反応だ。

 これも、三つ子なのが関係しているのか……?


「とりあえず、その辺に座ってて」


 俺はキッチンに向かいながら、サラに告げる。


「はーい」


 サラはリビングのソファーに勢いよくダイブしていた。

 クッションを抱きしめながら寝転んでいる。

 

(うーん……)


 相変わらずかわいいな、俺の彼女。


「あ、そう言えば他の二人もこの部屋に呼んだからね」

「うん? つまり三つ子全員に会えるの? 今日ここで?」

「そうだよー。私たち、この日を待ち望んでいたんだから」

「それって……」


 ——他の姉妹の彼氏を見てみたい、的な意味だよね?

 と聞こうとして、やめた。

 何か、そうではない予感がしたからだ。


(三つ子全員来るなら、コップが足りないな……)

 

 飲み物を出すつもりだったけど、これだと準備できないな。

 次に来るときまでにコップを買った方がいいのか?



 少しして、女の子がもう二人、俺の部屋にやってきた。


「本当に、サラが三人いる……」


 今、俺の部屋には同じ顔の女の子が三人いる。 


「こんにちは、みきとくん」


 お行儀よく、ぺこりと一礼したサラは、見慣れない髪型をしている。

 長い銀髪を後ろに束ねた、ポニーテールだ。

 制服のスカートの丈が、見慣れたサラより少し短い気がする。

 俺の知るサラは、制服をきっちり着こなすタイプのはずだ。


「やっほーみきとくん。来ちゃった」


 気さくに手をふりふりしているサラは、長い銀髪を、お団子ツインとでも呼ぶべき髪型にまとめている。

 こちらは制服を分かりやすく着崩しており、手首にシュシュを巻いているのが特徴的だ。


 二人とも少し、俺の知るサラとキャラが違うような。

 いやでも。

 こんな感じのサラも、見たことあるな。


「なんだか、三人とも初対面って感じがしないな……」


 俺の呟きを、三つ子は肯定した。


「実際、みきとくんは私たち全員と会ってるからね」

「三人揃ったし、自己紹介しようか」


 三つ子はソファーに並んで座った。


「私は遠城寺おんじょうじ咲楽さら、三つ子姉妹の長女です。同姓同名の三つ子で「サラ」と呼んだら区別が付かないので、親しい人からは「咲」の字から取って「さくちゃん」とか「さく」と呼ばれてます」


 真面目そうな雰囲気のサラ、改め咲が名乗った。

 先ほど、公園で会ってこの部屋に来たときは、いつも通りの口調だったのに。

 今は俺の知るサラより、丁寧な言葉遣いだ。

 しかし制服の着こなし方は、俺の知るサラそのものだ。


「あと、学校では生徒会に入ってます。宝物はみきとくんの寝顔写真です」


 俺がデート中にうたた寝してしまった時に撮られたと思われる写真を、得意げに見せつけてきた。

 生徒手帳に挟んで持ち歩いているらしい。


「こんなの、いつの間に撮ったんだ。しかも、常に持ち歩いているのか……?」

「はい。ところで……これからはみきと先輩と呼びたいのですが、いいですか?」


 咲は俺の呼び方を変えたいと申し出てきたが。


「先輩って、なんだか「みきとくん」より距離があるような?」

「でも、なんかいい響きじゃないですか。先輩、って」

「……分からなくもないな」


 年下の女の子から「先輩」と呼ばれる。

 うん。

 確かになんかいい響きだ。


「実際、みきと先輩は二年生で、私は一年生で、後輩ですし」

「うん、いいな。なんとなくだけど、サラ……さくらしい呼び方な気がするし」

「まあ。みきと先輩にはじめてさくって呼んでもらえました……素敵です」


 咲は嬉しそうだった。


「ずるーい。次わたしね」


 ギャルっぽいサラが、手を挙げた。


「わたしは遠城寺おんじょうじ彩良さら、次女だよー。私は「彩」の字からとって「あやちゃん」とか「あや」って呼ばれてるかな」


 ギャルっぽい雰囲気のサラ、改め彩が名乗った。

 こちらは俺の知るサラと比べて、少し砕けた口調だ。

 しかし、彩を見ていると。

 いつもサラがデートで着てくる服装が、三つ子の中で一番似合っているように思える。


「ずっと言ってなかったけど、実はモデルやってるんだ。最近、雑誌の表紙デビューしたから見てみてー」


 今朝も見かけた雑誌を、自慢げに手渡してくる。


「モデルみたいだな……と思うことはあったけど、本当にそうだったなんて驚いた」

「ねね。わたし、みきとくんのこと「みきと」って名前だけで呼びたいな。いいよね?」

「一応先輩後輩なのでは?」


 咲の言っていた理屈で言うなら、そうなるが。


「やー、わたしはそういうの気にしないし」

「後輩側が言うことなの……?」

「そもそもわたし、みきとの彼女だし」

「……それもそうだね。好きに呼んでいいよ。よろしく、あや


 誰が彼女なのか、という疑問はいったん置いておくとして。

 少なくともかわいい彼女と同じ顔をした女の子に頼まれたら、首を縦に振りたくなる。


「わー! みきとにあやって呼んでもらえた! なんかいいねこれ!」 


 喜ぶ彩の横で。


「やっと私の番かな?」

 

 ポニテのサラが様子をうかがってから。


「私は三女の遠城寺おんじょうじ清蘭さら。私だけ二文字目の「蘭」の方を取って、「らんちゃん」とか「らん」って呼ばれることが多いかな。私は剣道部で頑張ってるよ!」


 一番元気そうで体力のありそうなサラ、もとい蘭がそう言った。

 口調は俺の知るサラと同じだ。


「あとこれ、つまらないものですがどうぞ」


 手土産として、箱入りのおまんじゅうを持ってきてくれた。


「わざわざありがとう」

「ちなみに私は、今までの「みきとくん」って呼び方が好きだなー」

「じゃあ、今まで通り?」

「うん! 改めてよろしく、みきとくん」


 蘭は元気よくうなずいた。


「こちらこそよろしく、らん

「へへー、みきとくんにらんって呼ばれるの、想像してたより嬉しいね」


 三つ子はそれぞれ、俺の彼女であるの要素を少しずつ持っている。


 しかし髪型や服装、化粧、口調など。

 後付けでどうにかなりそうな部分は、三人とも少しずつ違う。

 一方で、顔や髪色、身長や体つきなど、三人が生まれ持っている要素は、全く同じにしか見えない。


 そうして三つ子の自己紹介が終わってから、俺は意を決して重要な質問をした。


「結局、俺の彼女は誰なの?」


 すると、三つ子は顔を見合わせてから。


「「「私たち、全員きみの彼女です」」」


 かわいい彼女と同じ顔をした三つ子姉妹は、口を揃えてよく分からないことを言った。


「はい?」 

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