第3話 遠城寺サラは三つ子らしい

 初体験を終えて、後始末をして、俺たちはネットカフェを出る。

 外はもう、暗くなっていた。


「なんだか……まだ不思議な気分というか、違和感というか……」


 サラは熱に浮かされたような様子で、下腹部の辺りをさすっていた。

 あまり他の人には見せたくないような顔だ。


 俺はサラが巻いていたマフラーを、深く巻き直した。


「……あの、これだと口が隠れて息しにくいんだけど」

「隠れてるくらいでちょうどいいよ」

「わあ。なんか、独占欲」


 くすり、と笑われた。

 そんなサラを見ていて、俺は改めて思う。


「やっぱり、かわいすぎるな」


 俺はさっき、こんなにかわいい彼女と初体験を終えた。

 童貞を卒業した。

 その感触は、なんというかまあ……上手く言葉にできないけど、すごかった。

 まだ頭がふわふわとしていて、あまり実感がわいてこない部分はある。

 多分この感覚は、明日になっても頭から離れないだろう。


「みきとくん、さっきからなんか変ー」

「……そうかな?」

「うん。ぼーっと私のこと見てばっかりだし」

「それは、仕方ないだろ」

「仕方ない? あ、もしかして」


 サラは俺に歩み寄ってきて。


「一回したら、前より好きで仕方なくなっちゃった?」


 耳元でそう、囁いた。


「……」


 破壊力抜群のあざといムーブにより、俺は思考停止する。

 全くもって、おっしゃるとおりだった。


「あはは。抜け駆けしちゃった気分だけど、こんなに好きになってもらえるなら、多分許されるよね」

「抜け駆け……?」

「あ、今のはなしで」

「……?」


 なんだ今の。

 浮かれて口を滑らせた、みたいな。

 サラはたまに、不思議なことを言う。


「ささ。予定より遅い時間になっちゃったし、これ以上遅くなる前に帰ろ?」

「そうだね。遅くなりすぎて、怪しまれるのも困るし」

「怪しまれるって、なんだか悪いことしたみたいだー」


 俺は若干ぎこちない歩き方のサラを支えつつ、駅に向かった。



 翌日。

 三学期初日。

 俺は最寄り駅から学校に向かって登校している。

 頭の中には、昨日の出来事が無限ループで再生されていた。

 あんなの、すぐに忘れられるわけがない。


 そう言えば、昨日のは年明けてあまり日が経っていない時期にしたよな。

 あれも「姫始め」ってやつにカウントしていいのだろうか。


「てか知ってる? 第一高校の美人三つ子姉妹の話」


 その時。

 近くを歩く女子生徒の会話が聞こえてきた。

 第一高校は、俺の通う第三高校の近くにある。

 何より、サラの通う高校だ。

 だから少し、気になった。


「あー、十月の文化祭で遊びに行ったときに見かけたかも」


 ……文化祭、俺は行ってないんだよな。

 あの頃はまだ仲の良い友人という程度で、付き合っていなかったし。


「その三つ子がどうしたの?」

「その一人……確か次女が、最近ファッション雑誌デビューしたんだよ、ほらこれ」

「うわー、すご。もうこれ、芸能人じゃん。直接会ってみたいなあ」


 女子生徒の一人が取り出した雑誌の表紙に載っていたのは、見覚えのある女の子。


「てか銀髪ってすごくない?」

「確かハーフらしいよ。父親が海外企業のエリートで、母親が女優とか?」

「えー親もすごいんだ。って」


 遠城寺おんじょうじサラ。

 雑誌の表紙を飾る人物は、外見も名前も、俺の彼女と同じだ。


「しかも三つ子全員、同じ名前らしいよ」

「同じ名前って?」

「全員、遠城寺サラってこと。「サラ」の漢字は違うらしいけど」

「へー、親のセンスヤバ!」


 同姓同名の三つ子。

 遠城寺サラ。

 サラが三つ子だったという話は、まだ半信半疑だが。

 もしそれが本当だとしたら。

 俺の彼女は。

 昨日俺とデートをして、童貞を卒業した相手は。

 一体、三つ子のうち、どのサラなんだ?

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