第3話 サク
青年サクは念願かなって、鳥のいる部屋に入ることができた。
金の鳥かごの扉をくぐると、さすがに盆を持つ手が震える。
この特別な鳥の食事係という役につくまでに、三年を馬の餌場で働き、三年を食材を保存している倉庫で働き、三年を調理場で働いてきた。
やっとだ。
だが、まだ油断はできない。
まずは、あやしまれないように、鳥の食事係として信用を得る。
そして、ことを起こすのだ。
ちらりと鳥を盗み見る。赤い体が俺には血の色に思えた。
こんな鳥がいたせいでっ……!
憎々しい存在を目の当たりにして、黒々した気持ちが一気にふきだしてくる。
俺は歯を食いしばった。
落ち着かねば……。
血のにじむ思いをして、やっとつかんだ機会なのだから。
心を落ち着けようと静かに息を吸うと、ふと、ひだまりのような金色の優しい瞳をした少女が脳裏に浮かんだ。
鳥の掃除係のヨリだ。
鳥の情報を得るためだけに近づいたが、鳥が好きで、きらきらした目で鳥のことを語る純粋なヨリを見ていると、嘘だらけの自分が、どす黒く汚く思えた。
そして、いつしか、ヨリと話す時間だけが、俺の唯一の癒しになった。
ヨリには偽名のサクではなく、父が名付けてくれた本当の名前であるジュリアンと名乗りたい。
でも、そんな時は永遠にこないだろう。
なぜなら、俺はヨリが大事に思っている鳥を殺すつもりなのだから……。
そして、伝説の鳥を得たぐらいで俺の父である王を裏切り殺した、ゲイルの息の根もとめるんだ。
謀反の時、俺は10歳。唯一の王子だった。
対外的にはジュリアン第一王子は死んだことになっている。
父の親友が俺の死を偽装して秘密裏に助けてくれたからだ。
まずは、王族の特徴的な金色の髪を茶色い髪にそめた。
青い瞳は隠しようがないが、幸い、この国にもたまにいるので、そこは大丈夫だった。
そして、俺は父を殺したゲイルのもとにもぐりこんだ。
父の親友は最後まで反対した。
そんなことをせずとも、鳥頼みのゲイルは自滅するから、その時まで待て、と。
だが、俺は待つのではなく、この手で、父の敵であるゲイルの息の根をとめたい。
元凶になった、その鳥もだ。
もちろん、平和を願って国を治めていた父は、俺がそんなことをするのは望まないだろうが、俺は復讐するためだけに今まで生きてきたんだ。
だが、ヨリと知りあって、ヨリから鳥のことを聞いて過ごすうちに、正直気持ちが揺らいだ。
鳥が悪いわけではない。利用したゲイルが悪いのだ。
ふと、顔をあげると、鳥が自分と似た色の目で俺をじっと見ていることに気が付いた。
まずい……。今は余計なことを考えるな!
俺は先輩の食事係から教えられたように、鳥の食事がのった金の盆を、鳥かごの中心にある金の台の上に置き、音をたてぬように、素早く鳥かごから外にでた。
すると、鳥は羽音もなくとびあがり、金の台の上に舞い降りた。
そして、盆の上にある、まっしろなふわりとした食事の中に、くちばしをうずめる。
空のように青い実からとれる、綿のような白いもの。
それは「雲」と呼ばれ、この鳥が、唯一、口にするものだ。
故に、この実がなる木を探して、猛者は旅をする。
この木があるところに、この鳥がいる可能性があるからだ。
といっても、ゲイルが見つけるまで、長い間、見つけた者は誰もいなかった。
最早、そんな鳥は実在しないのではないか。
伝説の生きものだろうと思われていた時に、ゲイルが見つけたのだ。
(おまえは、なんで、あんな奴の手に捕らえられたんだっ……!)
悔しさが、わき上がってきた。
その瞬間、いきなり、鳥が盆の上に倒れた。
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