第2話 国王ゲイル

豪華な絹の衣をなびかせて、国王ゲイルは鳥かごに足をふみいれた。


「私にまだ、声を聞かせるつもりはないのか? 暁よ」


暁とは、国王ゲイルが鳥につけた名だ。

この国で、この鳥に唯一声をかけられるゲイル。


ただ、国王と自分で名乗ってはいるが、おさめているのは、今や、とても小さな地域だけだ。


10年ほど前、この大陸はひとつの大きな国で、ゲイルは王の側近だった。

そして、ゲイルは、偶然、この特別な鳥を捕らえた。


体の色は火のように赤く、瞳には海の色を持ち合わせる美しい鳥を従える者が、国を率いる。

そんな言い伝えがある伝説の鳥だ。


ゲイルは王になりたいと思った。なれると思った。伝説の鳥を捕らえたのだから、と。


すぐさま、ゲイルは謀反をおこした。

伝説の鳥を信じる者たちを味方につけ、油断していた王を討った。自分に従わない者たちも力でねじ伏せた。

謀反は恐ろしいほどにうまくいった。


そして、ゲイルが国王になった。


だが、次第に、恐怖で支配していくゲイルから逃れる者がでてきた。

そして、その者たちは、それぞれに、小さな国をおこした。

この10年、戦いを繰り返すうち、ゲイルの領地はどんどんとせまくなり、ゲイルは心身ともに疲弊しきっている。


最高の職人に金に糸目をつけずに作らせた鳥かごの中、国王に見向きもせずに、遠くを見つめたままの鳥を見て、ゲイルは深くため息をついた。


そして、何度も何度もわきあがってくる不安が、また押し寄せてくる。


もしや、この鳥は伝説の鳥ではなかったのかもしれない……。

それとも、この鳥を捕まえたものの、声をあげぬのは、私を主とは認めていないのか……。


そうなると、私が国を率いる器にないということ。


なぜなら、伝説には、この鳥を従える者が国を率いるということのほかに、鳥が従う主を見つけた時、声を発するということも言い伝えられているからだ。


10年待った。だが、未だ、一度も声を発しない鳥。


ゲイルは首を横にふり、己の不安を打ち消した。


時がくれば、暁は声を発するだろう。信じて耐えるしかない。

伝説の鳥が鳴きさえすれば、私に再び波がくる。

私に歯向かう者たちもひれ伏すだろう。


特別な鳥を見つけた私が、間違いなく、鳥の主なのだから。


カラン、カラリ。


鳥かごの外で、小さな鐘の音がした。


ゲイルは鳥かごをでて、扉の外に声をかけた。


「何の用だ」


「おそれながら、鳥様のお食事の時間にございます」


扉越しに声がかえって来た。


「わかった」


ゲイルはそう答えると、灰色の長い髪をゆらし、鳥かごのある部屋をでた。

扉の外には、金の盆を持った鳥の食事係の青年が頭を低くして、ゲイルが通り過ぎるのを待っている。


「ご苦労」


おざなりに声をかけ、ゲイルは青年の前を通り過ぎた。

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