第3話 同じ訃報
それから半年が過ぎた。
地獄のようだった「プロジェクト・フェニックス」もようやく峠を越え、季節は息苦しい残暑が続く初秋へと移り変わっていた。
そんなある日の午後。
会社の総務から、タケシ部長宛に一本の内線が入った。
部長が受話器を置くと、険しい顔でトシアキさんのデスクへ向かった。
「トシアキ君。……奥さんの、お父様が」
訃報だった。
トシアキさんの妻の父親、つまり義父が急逝したという知らせだった。
フロアの空気が、半年前のあの日とは違う意味で凍り付いた。
誰もが、トシアキさんが半年前、私に何を言ったかを、鮮明に覚えていたからだ。
トシアキさんは一瞬目を見開いたが、すぐに「そうですか」と短く応え、何事もなかったかのようにモニターに向き直ろうとした。
私は、あの時の非情な言葉を忘れたわけではなかったが、それでも、人間として声をかけずにはいられなかった。
「トシアキさん……。この度は、お義父様のご不幸、心よりお悔い申し上げます。……どうか、ご無理なさらず、規定通りお休みを取ってください」
私の言葉に、タケシ部長も強く頷いた。
「トシアキ、ノゾミさんの言う通りだ。これは休むべきだ。奥さんと子供たちを支えるのが、今は君の最優先の仕事だろう」
周囲の同僚たちも、無言で頷いている。
それは同情であり、同時に、半年前の答え合わせを迫るような視線でもあった。
しかし、トシアキさんは、そんな周囲の空気を振り払うかのように、苛立った声を出した。
「皆、何を言ってるんですか」
彼は、半年前の私と全く同じ状況で、あるいはそれ以上に意地になっていた。
「私が、一週間も会社を空けて、このプロジェクトの最終調整が回ると思っているのか? 義父のことは妻に任せてあります。私には私の責任がある。私は会社を支える。それが私の責任だ!」
全ての説得を、彼は「責任」という名の鎧で突っぱねた。
そして、トシアキさんは――。
義父の通夜が営まれているはずの日も、葬儀が執り行われる日も、変わらず会社に出社し続けた。
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