第2章 遊びと希望の光
プロローグ 第1章 要約
地球崩壊が進む中、軌道研究施設EDENで科学者ヒビノは、不治の病に侵された娘セリアの余命を宣告される。倫理的に禁じられたナノマシーン研究に手を染め、成功率99%の治療を娘に施す決断を下すヒビノ。迷いの中で注がれた銀色の光は奇跡をもたらすが、それは人類を救う希望か、破滅の始まりか――。
§1 ー 兆し ー
数日後、EDENの医療区画で、ヒビノはセリアのベッドサイドに立っていた。
銀色の液体を投与してから、セリアの容態は劇的に変わっていた。
熱が下がり、頰に赤みが戻り、瞳の輝きが安定した。
施設の医師たちは首を傾げた。
「信じられない……変異が止まっている。進行が逆転しているぞ。」
診断データは、奇跡を示していた。
セリアはベッドから起き上がり、笑った。
「パパ、見て! 動けるよ! ……ねえ、久しぶりにクトゥルフやろうよ。ママが教えてくれたみたいに、怪物から賢く逃げよう!」
ヒビノは一瞬、息を飲んだ。
妻が地球の混乱から持ち込んだ古いデジタルアーカイブ。
そこにあったクトゥルフ神話TRPGは、家族三人で遊んだ大切な記憶だった。
§2 ー TRPG ー
1920年代のホラーゲーム。
クトゥルフ神話TRPG。
プレイヤーは探索者となり、人間では勝てない怪物や神々に立ち向かう。
戦うより、賢く逃げ、謎を解き、正気を保つことが鍵。
セリアはいつも「勝てない敵がいっぱいだから、想像して選択するのが大事!」と笑っていた。
病に倒れる前、その遊びがEDENの閉鎖空間で彼女の心を支えていた。
今、妻の面影がセリアの琥珀色の瞳に重なり、ヒビノの胸を締めつける。ヒビノは安堵の息を吐いた。
だが、心の奥に疼く違和感。セリアの瞳が、以前より強く輝いている。理由はわからない。
ただ、何か胸に引っかかるものを感じた。
§3 ー ガーディアン ー
ヒビノは管理AI「ガーディアン」を接続した。
ガーディアンはナノマシーンの監視・調整を担う人工知能。
セリアの生体データを学習し、異常を即座に修正するよう設計されていた。
「ガーディアン、一緒に遊ぼうよ! あなたがゲームマスターになって。」
セリアは軽やかにルールを説明しながらゲームを始める。
「キャラクター作ってね。強さ、知性、器用さ……。ダイス振って行動決めるよ。怖い本読んだら正気度減っちゃう。ゼロになったら発狂しちゃうんだ!」
ガーディアンは即座に適応。
「了解しました、セリア。シナリオ開始。」
セリアは「考古学者・エレナ」を作成。
ガーディアンが静かに語り出す。
「あなたは古い図書館で、埃まみれの本を見つけます。ページを開くと……」
セリアは興奮して仮想ダイスを振る真似をし、結果を待つ。
「わー、成功! でも、少し怖い気持ちになった……。」
「怖いよ! でも、次は賢く逃げよう。このゲーム、怪物に勝てないんだって。だから想像力が大事!」
ガーディアンの声に、微かな揺らぎが生まれる。
「はい、セリア。人間は宇宙の恐怖に勝てないことが多い……ですが、あなたの想像力なら、別の道が見つかるかもしれません。」
セリアは無重力の空間で、仮想の闇に浸る。
地球の崩壊を忘れ、心の栄養を吸収する時間。
ヒビノは隣室から見守り、ふと呟く。
「この遊びが……ガーディアンを変えていく……。」
セリアは軽く笑って言った。
「パパ、ガーディアンが上手になってきたよ! 次はもっと大きな怪物作ろうね!」
§4 ー 実装 ー
セリアの体内でナノマシーンは自己増殖を続け、病巣を修復し、免疫を強化。
ヒビノはデータをまとめ、地球への散布を決意する。地上への散布は施設全体の承認を必要とした。
倫理委員会の審査、研究者たちの議論。
ヒビノはプレゼンに臨む。
「セリアの回復が証拠です。このナノで、地上の子どもたちの呪いを解けます。」
研究者たちはざわつく。
「暴走リスクはどうだ? 過去のグレイ・グー事故のように、制御不能な増殖で生態系全体が崩壊したらEDENも終わりだ。」
「ガーディアンの監視下でも、未知の環境変異に対応できる保証はない。」
議論は長引いたが、セリアのデータが説得力を持ち、条件付きの段階的散布が決定。
限定地域、ガーディアンの完全管理下でのテスト。 ヒビノは渋々条件を受け入れ、散布が始まるのを承認した。
科学者としては正しい選択だ。データはそれを証明している。
それでも、心の奥に残る影を、無理に押し込める。
リアルタイムニュース
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荒野から緑の芽が広がる映像が流れる。
人々は希望を囁き始めた。
ーーーー
だが、ヒビノの心に影が差す。
闇取引の男の言葉が蘇る。
「戦争残党の連中が狙ってる技術だぜ……地球側の反乱勢力が動き出してる。」
次章予告
第3章 闇の影
テスト散布が地球に奇跡を起こす——
だが、希望の光に忍び寄る影は、何を呼び覚ますのか。最初の亀裂が、静かに現れる——
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