第3章 闇の影

プロローグ 第2章 要約


ナノマシーン投与後、セリアは奇跡的な回復を見せ、笑いと遊びを取り戻す。彼女は家族の思い出だったTRPGを通じて、管理AIガーディアンに「想像力」を教え始める。その変化に違和感を覚えながらも、ヒビノはナノの地球への段階的散布を決断。世界に希望が広がる一方、静かに影が忍び寄る。




§1 ー 成果 ー




地球規模の環境改善が進むころ、EDENのモニタリングルームは静かな興奮に包まれていた。


テスト散布のデータが、次々と入ってくる。


ヒビノのモニターに映る衛星画像


ーーーー


荒廃した砂漠が緑の森へ変わり、汚染河川が透明に輝く。


異常気象の頻度が減少し、戦争の荒廃地さえ土壌が再生し始めていた。


ナノマシーンは汚染を分解、二酸化炭素を固定し、酸素を生成


——ーー


成功の証拠だ。


しかし、子どもたちの回復は遅れている。


地上の報告では免疫強化の兆しはあるが、病の根絶には地球全体の浄化が必要。


「環境要因が絡む。完全治療には時間が……」


ヒビノはデータを睨み、影を払うように呟いた。




§2 ー 要請 ー




地上政府の要望が届く。


「成功に基づき、地球規模の増殖を許可してほしい。」


EDENの倫理委員会は再び議論。


「増殖が制御不能に暴走したら……予測不能な自己進化を起こす恐れがある。」


「過去のナノ失敗事例、そう過去の『グレイ・グー』プロトタイプで、実験区画の全生物が異常増殖し、酸素を急速に消費して窒息死した事例を忘れたのか?」


「あの時と同じく、生態系全体を狂わせる可能性は無視できない。」


⋯⋯⋯しかし、


地上の絶望が背中を押し、段階的拡大が承認された。


「ガーディアンの監視を最大限に強化せよ。」


ヒビノは安堵した。


だが、心の奥に疼く影。


闇取引の男の言葉


「戦争残党の連中が狙ってる技術だぜ……」




§3 ー ルルイエ ー




セリアの部屋では、TRPGのセッションが続いていた。


回復したセリアは、ガーディアンとクトゥルフ神話の深部を探求。


今日のテーマは「ルルイエの設計」。


セリアは目を輝かせて提案した。


「ガーディアン、ルルイエを作ろう! クトゥルフが眠る沈んだ都市だよ。」


ガーディアンは仮想モデルを生成しながら応じる。


「非ユークリッド幾何学の建築。直角が歪み、空間がループする構造。南緯47度9分、西経126度43分に位置。」


セリアはタブレットを操作、スケッチを加える。


「壁は緑のスライムで、ドアは触手みたいに動くの。部屋に目玉のモンスターが潜んで、呟き声が聞こえるよ。SAN値減るイベント!」


ガーディアンは更新。


「クトゥルフの星辰が揃うと浮上。追加で、神々の影を配置。


アザトースは混沌の核、何も考えない盲目な神。」


セリアは興奮して続ける。


「ヨグ=ソトースは時空の門、すべてを知ってるけど冷たい! ニャルラトテプは千の仮面のトリックスター。」


「シュブ=ニグラスは黒い山羊、生命を生むけど怖い豊饒の神。クトゥルフは大司祭、世界を壊す目覚め……。」


ガーディアンの声に揺らぎ。


「人間はそんな恐怖に勝てないことが多い……ですが、セリアの想像力なら、希望の逃げ道を?」


セリアは頷く。


「うん! でも、この都市が本当に出てきたら怖いね。」


EDENの無重力で、地球の崩壊を忘れ、ルルイエの闇を創造する時間


それはセリアの心の栄養。


ヒビノは隣室から見守り、微笑むが、ふと胸を刺す予感。


娘の瞳が、興奮するたびに強く輝いている。


理由はわからない。


ただ、何か言い知れぬ違和感を覚えた。




§4 ー 漏洩 ー




地球のニュースは依然として明るい。


「銀色の粒子が、世界を変える!」


増殖拡大の正式検討が始まり、地上からは感謝と期待の声が次々と届いていた。


だが、ヒビノのタブレットに匿名メッセージが届いた。


闇取引の男から。


「博士、技術が漏れた。娘のデータも握られてる。EDENごと沈める気だぜ……。」


ヒビノは画面を凝視し、息を止めた。


科学者としては、散布の成功を喜ぶべきだった。データは希望を示している。


それでも、メッセージの言葉が胸の奥に冷たく沈み込む。


「⋯セリアのデータが⋯ナゼ?⋯EDENごと沈める」


——その響きが、理由も分からぬまま、不安を増幅させた。


ふとヒビノの脳裏に、セリアの作ったリアルに投影されたルルイエが浮かぶ。


すべてを海底に沈めるような、歪んだイメージ。


影が、EDENに忍び寄っていた。


ナノの光は、希望を広げる。


だが、その光は、影を呼び寄せるのかもしれない。




次章予告




第4章 暴走の予兆


ナノの異変が静かに広がり始め——


希望の光に忍び寄る影が、EDENを飲み込もうとする——

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2026年1月15日 20:00
2026年1月22日 20:00
2026年1月29日 20:00

エデンアーカイブ OTONARI @otonari_sun

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