第6話 森の奥に潜む闇
夜が明ける少し前。冒険者ギルドにはすでに人が溢れていた。
緊張で眠れなかったのか、隈を作っている奴が多い。
けれど、全員の顔つきはどこか覚悟を決めていた。
「あ……ルカさん、おはようございます!」
背中から声をかけてきたのは、背負い袋をパンパンに膨らませているトーマスだ。
「よう。……で、その荷物なんだよ」
「これですか? 何があるかわからないんで、ポーションを沢山仕入れておきました!」
「……それじゃ森に着く前にへばりそうだな。悪いことは言わねぇから少し減らしとけ」
トーマスは「う、うーん」と唸る。根は真面目なんだが、空回りが多い。まあ、大規模調査なんて滅多にない事だから気負うのも無理ない。
そこへセレンが慌てて駆け寄ってきた。
昨日から働き詰めなのだろう。目の下にはうっすら隈ができているが、表情はいつも通りの柔らかな笑みだ。
「すみませんルカさん。夜間監視の人数が足りなくて……少しだけでもお願いできませんか?」
「ああ、わかった。今から行くよ」
まだ唸ったままのトーマスに別れを告げ、ギルドの扉に向かう。緊急招集を受けたのだろう、ハヤトと元奴隷少女が丁度入れ違いで扉から入ってきた。
二人共、装備を一新したのかちゃんとした冒険者に見える様になっていた。少女は特徴的な耳を隠すようにフードを深く被っている。
そんな二人を横目で見つつ俺は監視場所へ急ぐ。目的の森は町からそれ程離れていない為、走り続けた。
森の前に着く頃には徹夜で作ったらしい監視用の櫓が点在しているのが見えた。近づくとそのひとつから声がかかる。
「おーい! 交代か!」
明かりを振る冒険者のところへ登ると、疲れ切った顔で笑っていた。
「助かった……交代の奴がこなくてよ」
「それはおつかれ。それで……どうなんだ?」
「今のところはなにも。いや、強いて言えばちょい静かすぎるくらいか」
「……静かすぎる?」
よく耳を澄ませる。
確かに何も聞こえない。
――獣の鳴き声ひとつ聞こえない。
――風で揺れる木の音すら、妙に遠い。
(……確かにこれは静かすぎて気持ち悪ぃ)
冒険者を休憩に送り出し、一人で見張る。目の前の森はやけに暗く、どこまでも深い黒に塗り潰されているように感じた。
「……ん?」
一瞬、暗闇の中で赤い何かが動いた。
目を凝らした瞬間には、すでにそこは黒一色。
(……いや、見間違いか?)
夜はそれ以上は動きがなかった。
だが、背筋の冷たさだけはずっと残った。
*
空が白み始める頃、調査班が森の入り口に集まる。俺も交代してその集団に混ざった。
ギルドマスターの声が響く。
「――これより大規模調査を開始する! 全員、配置につけ!」
冒険者たちは武器を構え、それぞれの配置につく。俺は先行班の少し後につく。すぐ隣りにはザックがいた。よく知らない奴よりかはだいぶマシだ。
「ルカ……やっぱ怖ぇよな……」
「そりゃあな」
泣き言を漏らすザックの声に同意する。誰だって自分の命に関わる事はしたくない。
俺は汗で濡れた手のひらを服で拭い、剣を握り直す。
先行班に続き、森に一歩踏み込んだ瞬間――
ぞわっ。
背筋を冷たいものが這い上がった。
森の中の空気が……死んでいる。
普段なら聞こえる鳥や小動物の鳴き声も聞こえない。
それはいくら進んでも変わらず続いていた。
折れ枝の音、足音だけが響く。
本格的に嫌な予感が、形になりはじめた。
その時――
「魔物だ!全員警戒しろ!」
前から声が上がる。
立ち止まり辺りを警戒する。
薄暗い森の中。今まで静かだったのが嘘だったように。
赤い光が浮かぶ。
ひとつ……ふたつ……
いや――もっとだ。
大量の魔物の“目”が、闇の奥からこちらを見ている。
いつの間にか囲まれていた。
「う、うあああああああッ!!」
誰かの悲鳴。
次の瞬間――
魔物達が暗闇から“溢れ出した”。
「来る――ッ!!」
俺は反射で剣を構えた。
大型犬ほどの獣が二体、一直線に突っ込んできた。
この森にこんな魔物がいただろうか。見た事がない。
それに不気味に赤い目が光る。
――いやな予感。
「ザック!避けろ!!」
俺は横に跳び、爪を紙一重で回避する。
「うわっ!やべっ!!」
ザックの悲鳴を聞きながら魔物に向き替える。すぐ近くの木に深く鋭い爪痕が付いていた。まともに喰らったら致命傷になりかねない。
「おい!こっちだ!」
少し後ろで大型の盾持ちが叫ぶ。
「ザック!一旦下がるぞ!」
「ああ!こいつらやべぇよ!」
魔物と一定の距離を保ちつつ、後退する。
周りでは誰かが吹き飛び、どこかで木が倒れる音。
既に森全体が戦場と化していた。
なんとか盾持ちの後ろまで下がると近くにいた冒険者が震えた声で呟く。
「おい……これ……スタンピードしてねぇか……?」
周囲をよく見ると――
一部の魔物は冒険者の横をすり抜け、一直線に“町の方向”へ走っている。
(やべぇ……!)
「マジか……。おい、そこの二人はギルマスに伝令を頼む」
俺とザックは顔を合わせて頷く。
「わかった。暫く頼んだ!」
二人で魔物と並走するように全力で森を駆け抜ける。
入り口付近では既に後方待機の冒険者たちが防衛戦を張っていた。どうやら他の冒険者がスタンピートの情報を伝えていたらしい。
(ここ突破されたら……町が終わる)
俺は叫びながら体を反転させ剣を構えた。
魔物が、大地を砕きながら飛びかかってくる。
「来いよ、クソッタレ!!」
一般冒険者の俺は静かに暮らしたい〜ギルドに現れた新人(転生者)によって俺の生活は崩れ去る 妄想メテオ @mo-so-meteo
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