第5話 不穏な影の行方
その日のギルドは妙に賑やかだった。
依頼ボードの前で揉める声がいつもより多い。
ザックは胸当てを撫でながら意味もなく歩き回り、
セレンは書類を抱えたまま走り回っている。
(なんだこの落ち着かない空気……)
俺は定位置に腰を下ろしながら、聞き覚えのないざわめきを耳に入れた。
「――さっき町に貴族の馬車が来たらしいぞ」
「あー、なんか華やかな飾りの見たな。令嬢が来てるとか」
(貴族か……面倒なことの前触れじゃないだろうな)
冒険者にとって貴族は“金払いのいい依頼主”であり“厄災”でもある。
勝手気ままで、怒らせると最悪命の保証がない。
だが金払いはいい。リスクを取るかリターンを取るか。
それにしても、こんな田舎町に一体どんな用事があるのやら。
俺は頭を振って考える事をやめた。どちらにしても厄介事で間違いないだろう。それに俺とは関係ない話だ。少し冷えてしまったスープを啜る。
そんな時だった。
「セレーン! 聞いて聞いてーっ!」
「マジでやばかったんだけどー!」
扉を蹴り開ける勢いで、うるさい二人組が飛び込んできた。
「どうしたんです?落ち着いて話してください」
セレンは書類を抱えたまま対応に追われる。
「なんか森でさー! 魔物がヤバくて!」
「数とかヤバくて!目とか赤く光ってるしヤバすぎ!」
その声に、ギルド内の空気が揺れた。
森――町のすぐ裏にある、冒険者にとって最も身近な狩場だ。
そこで“何かがおかしい”となると、ただの噂では済まない。
ちょうどその時、遅れていたギャルたちのパーティメンバーが揃い、緊迫した顔でギルドマスター室へ向かっていった。
「おい!聞いてたか!異変だってよ?」
興奮したようにザックが話しかけてくる。
「らしいな。まあ面倒な事にならない事を祈るわ」
その後は続報が気になるのか、常設依頼にいく事もなくその場の全員がテーブルで噂話に花を咲かせる。
――暫くして再度ギルドの扉が勢いよく開く。
「はぁ……はぁ……ッ、誰か……助けてくれ……!」
ギルド全体が振り返る。
名前は知らないが何度か見かけた事がある二人組。
防具は裂け、腕や脚には血が滲み、背中には完全に意識を失った仲間を背負っている。
「大丈夫ですか!? 誰か救護室に運んで!」
セレンが慌てて駆け寄った。
「森の……奥で……やばい、魔物が……ッ」
「今は治療を優先します。話はあとで!」
セレンの声がギルド全体に響く。
ざわついていた冒険者たちが、一斉に息を呑んだ。
冒険者たちが急いで彼らを支え、治療室へ運んでいくとギルド全体に、重たい沈黙が落ちた。
運び込まれた男の胸当てには大きく抉れた跡を思い出す。普通の魔物じゃ、あんな傷はつかない。
(……やべぇな。これ、嫌な予感しかしねぇ)
俺の隣でザックがごくりと唾を飲む。
「ルカ……これさ……もし依頼になったら、俺たちも行くよな?」
「行かなきゃ査定が下がるだろ。
……死にさえしなきゃ、なんとかなる」
「生き残れる保証は?」
「ねぇよ」
「だよな……」
ザックが肩を落とす。
だが、それは俺だって同じだ。
そのとき――ギルド奥のドアが開いた。
「全員、静粛に!」
ギルドマスターが姿を現し、重い空気を切り裂くように言った。
「森の異変について、正式に依頼が出る。
規模が大きいため、ギルド所属の冒険者全員に参加を要請する。」
その言葉で、場の空気が震えた。
「おいおい全員参加とかマジかよ……」
「大規模調査じゃねぇか……」
「そんな危ないならランク上げてからにしてくれよ……!」
泣きそうな声、怒声、ざわめき。
(……来たな)
嫌な予感は、案の定当たったらしい。
「今から呼ばれた冒険者は交代で森の監視を任せる。あと、出払っている冒険者に緊急召集を伝えてくれ」
呼ばれた奴らは慌ててギルドから出ていく。
残っている奴らは普段とは違い、ギルドマスターの言葉に真剣に耳を傾ける。
「もうすぐ暗くなる。調査自体は明朝からだ。何が起きるかわからん……各自十分な準備しておいてくれ」
明日から始まる戦いに向けて一斉に動き出した。
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