第3話 悪徳奴隷商人

今日も今日とてギルドのテーブルで俺は頭を抱えていた。

 ただでさえ依頼書の奪い合いが発生しているというのに、最近は新しい依頼そのものが少ない。争奪戦は熾烈を極めるばかりだ。


 連日の草取りに嫌気がさしていた俺は、ふと思い立ち、少し離れたところで毎回うんうん唸っている奴に声をかけることにした。


「よう、トーマス。元気してたか?」


「あっ、ルカさん。どうしたんです?」


「何を唸ってるのか気になってな」


 トーマスは依頼ボードを見つめて、また「うぅん……」と唸りだした。

 真面目すぎて空回りしがちな奴で、冒険者になって半年になるが、毎日のように悩んでいる姿を見かける。


「薬草採取か、ホーンラビットの肉の納品かで迷ってて……」


「兎狩りはやめとけ。見つからなかったら一日無駄だぞ」


「でも薬草採取は……腰を痛めるってザックさんが」


 正しいが他に選択肢ないんだよな。いや、あるにはあるが金にならない。セレンが貢献度が上がるからと無駄に勧めてくる印象しかない。

 ――受付の方から謎の視線を感じたが、きっと気のせいだとそっちを見ないようにした。


 俺は軽く息を吐いて、ぽつりと言った。


「……よし。たまには一緒に草集め行くか」


「えっ! いいんですか?ありがとうございます! 準備してきます!」


 トーマスは嬉しそうに走り出していった。

 草集めごときに準備が必要なのか疑問だが、まああいつらしい。走っている後ろ姿に町の入り口で待ち合わせだと声を掛けておいた。


 俺はゆっくりとギルドの外へ出て、待ち合わせ場所へ向かう。

 その途中――。


 珍しく、奴隷商の馬車が止まっていた。

 横を通り過ぎようとしたところで、威勢のいい声がかかる。


「そこの冒険者の兄ちゃん! お値打ち品があるよ! 見るだけ見ていきなって!」


 俺には関係ないと思いながらも、視線を向けると、そこにいたのは――亜人の少女。


 薄汚れた服。

 人とは違う耳を伏せ、小さな肩を震わせている。


 俺の視線に目敏く気づくと

「売れ残りでねぇ、安くしとくよ。ほら、この耳のせいでなかなか客が……」


 商人はへらへらと笑い、少女は何もかもどこか諦めているような目をしていた。ただ、怯えて、動かず、俯いて。

 この国の亜人への風当たりは悪い事を思うと、なんとも言えない。


(売れ残るだろうな……。物好きでも現れないかぎり)


 少女の行く末を考えようとして直ぐにやめる。

 俺には関係ないと視線をそらし、そのまま歩き出す。


 待ち合わせ場所には、全力で装備を整えたトーマスが立っていた。


「ルカさん! 準備完了しました!」


「……そんな張り切らなくても、草は襲ってこねーぞ」


 そう言いつつ、俺も荷物を背負い直す。

 さあ、いつもの仕事の始まりだ。


 

 草取りは本当にいつもと変わらなかった。……時々、隣から唸り声が聞こえてくる以外は。

 

 こり固まった腰をさすりながらギルドに帰ると、トーマスはギルドに着くなり倒れ込む。全身フル装備で一日中、中腰で過ごせば当たり前だ。

 それを横目に依頼報告に向かう。

 

「はい。いつも通りですね」


 たまには違う依頼を受けてもいいんですよと、金にならない依頼をオススメしてくるセレンの話を変える。

 

「ところで、預けてある金引き出したいんだが」

 

 ――――


 ギルドからの帰り道。

 奴隷商の馬車が帰り支度をしているのを見かけた。

 

「よお!冒険者のにいちゃん!」

 商人はとても上機嫌に話しかけてきた。


「あの亜人売れたよ!世の中には物好きもいたもんだねぇ!」

「……そりゃよかったな」

「俺もこんな商売やってるが心が痛いんだよ。でも優しそうな人が買ってくれて俺も嬉しいよ」


 軽く手を上げて横を通り過ぎる。

 後ろからまた今度来たら買ってくれよ。と声がした。


 手にしていた小袋を、軽く上に放る。

 落ちてきた小袋を掴むと、金属が擦れる乾いた音が小さく鳴った。


「飯でも食って帰るか」

 

 何故だか、僅かに眉の力が抜けたような気がした。

 理由を考えようとして直ぐにやめる。

 小袋を鞄に入れて、そのまま近くの食堂を目指した。

 

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