第3話 俺の腹が限界を迎えた結果、国が一つ悟ったωω

 まず言っておく。


 俺は悪くない。


 腹が悪い。


 異世界三日目。

 腸内環境は完全に異文化衝突を起こしていた。


「……歩き方がおかしい」


 リーナが言った。


「気のせいだ」


「股が閉じてる」


「勇者の構えだ」


「聞いたことがない」


 城の廊下。朝。

 俺は半歩ずつ進んでいた。

 下腹部に全神経を集中させながら。


「いいか」


 リーナが立ち止まる。


「今日は“排泄管理任務”だ」


「正式名称にするな!!」


「勇者がトイレを探して城を彷徨った結果、二回封印が緩んだ」


「不可抗力!」


「今回は万全を期す」


 俺の周囲には――

 前方:司祭

 後方:魔法使い

 左右:衛兵


 完全包囲。


「俺、国家機密かな?」


「災害指定個体だ」


「言い方ァ!」


 曲がり角を曲がった瞬間、

 俺はそれを見た。


 トイレ。


 扉。


 石造り。


 異様に荘厳。


「……神殿?」


「トイレだ」


「嘘だろ」


 司祭が咳払いした。


「ここは“聖浄便所”」


「名前を考え直せ!!」


「国で最も清らかな場所」


「俺を入れるな!!」


 腹が、鳴った。


 低く、長く、絶望的に。


 全員が硬直した。


「……今のは」


「違う」


「予兆だ」


「だから違う!!」


 司祭が叫ぶ。


「勇者の腹が鳴る時、世界は応える!!」


「応えなくていい!!」


 鐘が鳴った。


 なぜか人が集まる。


 なぜか楽隊が来る。


 なぜか祈りが始まる。


「やめろ!!」


「勇者よ、落ち着いて排泄を!」


「落ち着けるか!!」


 俺は理解した。


 この国、

 俺が何かすると必ず“意味”を付ける。


 逃げ場がない。


 俺は扉を開けた。


 中は――

 便器。

 魔法陣。

 神聖な光。


「だからなんで光るんだよ!!」


「封印と接続している!」


「便器に!?」


 限界だった。


 俺は座った。


 その瞬間――


 ドン。


 遠くで爆発音。


 ドン、ドン。


 警鐘。


 俺は叫んだ。


「今じゃねえって言ってるだろ!!」


 外では混乱。


 中では地獄。


 俺はただ、必死だった。


 ――結果だけ言う。


 俺の排泄と完全に同期して、

 城下を狙っていた魔王軍の呪術が全反射された。


 なぜか?


 後でヒロインが説明した。


 白髪の少女――厄災担当。


 彼女は、外で真顔だった。


「あなた、極限状態で“一番被害の出ない選択”を無意識に取る」


「トイレだぞ?」


「集中してるでしょ」


「してたけど!!」


「だから封印が全部あなたに寄る」


 俺は便座に座ったまま言った。


「……つまり?」


「あなたが“一番耐えてる間”、世界は安全」


「嫌な勇者適性だな!」


 扉が開いた。


 全員が土下座していた。


「勇者……!」


「国は救われました!」


「尻拭く前に言うな!!」


 国王が深く頭を下げる。


「勇者よ……」


「もういい……」


「今後、この便所は――」


「聞きたくない!」


「勇者専用とする」


「やめろ!!」


 その日、新しい戒律が生まれた。


 勇者が腹を押さえたら、全軍警戒。


 俺の借金は少し減った。


 理由は簡単だ。


 被害がゼロだったから。


 異世界三日目。


 俺は知った。


 この世界では、俺が一番我慢している時が、一番平和だ。


 納得できるかは、別として。

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犯人は主人公 @tyouorenosyousetu

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