第2話
「あのウェーイな人、本当にアオイさんの同級生なんですか?」
「チャラのこと?」
「チャラってあだ名?」
「ううん、金田
「マジですか」
二重の意味で驚きだ。
そんな会話をしながら、アオイさんは俺の腕を離れて少し先を歩いていた。足取りがふにゃふにゃしていて、危なっかしいったらない。迎えに来てよかった。
「アオイさん、危ないから手、繋ぎましょ」
ほら、と手を差し出す。
振り返ったアオイさんは薄手のコートのポケットに両手を突っ込んだまま、少し罰の悪そうな、申し訳なさそうな顔をしていた。
「アオイさん?」
「ご、ごめん。マシロくんまだ高校生なのに、こんな時間に呼び出しちゃって。お酒が出てる場所に呼ぶなんてほんとどうかしてた。迷惑だったよね、ごめんね……」
寒空の下を歩いて、少し酔いが冷めたのかもしれない。
俺は「まだ九時前だし、ぜんぜん大丈夫ですよ」と笑って返す。
それに仮に零時を過ぎていたとしても、あんなビデオ通話をもらったらやっぱり飛んで行ったと思う。だってどう見たって気心知れた幼馴染に見えないもん、チャラさん。恋人を寝取るチャラ男だもん。アオイさんは俺の恋人じゃないけど。
だけど、差し出した俺の手は未だ宙を掴んだままだ。
「授業お休みしててしばらく会えなかったでしょ? だからなんかこう、落ち着かなくて……顔見たいなーって思ってたから、お酒にかまけてつい呼び出しちゃった」
訂正。やっぱり酔ってるよ、この人。
だって俺、ただの生徒なのに。冬休みが終わって金曜日になればまた会えるのに。それすら待てなくて、お酒の勢いで呼び出しちゃうくらい俺に会いたかったってことでしょ?
何、それ。
「……迷惑じゃないです」
「ほんと? 呆れちゃったんじゃない?」
「ううん。むしろ俺のこと呼んでくれてよかった」
「……? どうして?」
どうして、って聞かれても。
「俺以外を呼んでたらどうなってたかわからないでしょ」とは、さすがに言えなかった。まぁきっと俺が来なくても、チャラさんがウェーイって言いながら送ってくれたんだろうけど。
質問を誤魔化すように「ほら、手」と再び催促した。
マフラーに鼻先を埋めたアオイさんは、遠慮気味に右手を伸ばす。「そっちじゃないです」と言って、俺はコートに突っ込まれたままだった左手を掴んで左隣を歩き出した。酔っ払いに車道側を歩かせるわけにはいかないじゃん。
それにしても……。
「冷たっ! えっ⁉ アオイさん、手冷たい!」
「冷え性だから……――っくしゅ!」
「寒いんじゃん! 真冬なんだからもっと厚手のコート着なよ!」
「だってあったかいのって高いし……」
「もぉー!」
そこをケチって風邪でも引いたらバイトもできなくなるし、元も子もないじゃないか。
俺はダウンジャケットを脱いで、アオイさんに問答無用で着せる。
「ちょっ、いいって。これじゃあマシロくんが寒いでしょ!」
「俺、走って来たから暑いんで大丈夫です! ほら、ちゃんと袖通して!」
俺だって問答無用で呼び出されたんだから、これくらい強引でも許されるよね。
ダウンジャケットのジッパーを一番上まで引き上げて、いつもより乱れ気味なハーフアップにフードも被せた。
薄手のコートの上からでもすっぽり収まったアオイさんが、物言いたげにちらりと俺を見やる。
「……走って来てくれたの?」
「そうですけど……えっ、もしかして汗くさい!?」
汗だくジャケットに包んでしまったと焦る俺に、アオイさんは首を小さく横に振る。あったかくなったせいか、白かった頬にうっすらと赤みが差していた。
「違うよ。そうじゃなくて……」
「……?」
「……やっぱりなんでもない」
「何それ!」
「いいから。上着ありがとう。マシロくんが風邪引いちゃうから、早く帰ろ?」
そう言うと、今度はアオイさんのほうから俺の右手を握って歩き出した。
女の子とは全然違うけど……いや女の子の手なんてモモカ以外握ったことないけど。
アオイさんの手、ちっちゃい。
そう思ったら寒くて風邪引くどころか、どんどん暑くなってきてるのは気のせいだろうか。
「ねぇ、マシロくん」
「は、はい……?」
アルコールでとろんとしたタレ目に見上げられて、ドッと鼓動が跳ねる。全力ダッシュした直後みたいに心音がうるさい。
「僕、ずっとマシロくんに伝えたかったことがあるんだけど」
「へ!?」
繋がれた手。
熱い眼差し。
火照った顔。
いい感じの歩道橋の下。
ふたりきりの道端。
遠くに聞こえる踏切の音。
――こ、告白だ……!
恋愛ドラマでよく見るシチュエーションにバッチリ当てはまっている。告白だ、絶対に!
うわ、うわぁ、どうしよう。告白されるなんて幼稚園以来なんですけどー!
というか、この場合なんて返事すればいいの? 俺、恋愛対象は女の子だし。アオイさんとそういうのは想像……で、できなくもない、けど。どうしてかヨユーで想像できちゃうけど! でも惰性でオーケーするのって違うじゃん!? だけど断ったら家庭教師のバイトも来づらくなって辞めちゃうかもしれないじゃん!? アオイさんに会えなくなるのはやだよ、俺。あれ? なんでやなんだ? あれぇ???
「マシロくん、あのね……」
「ま、待って、まだ心の準備が――」
「明けましておめでとう」
「……へ?」
「って、ちゃんと言いたかったんだぁ」
それからすぐにへにゃ~っと満足そうに笑って、アオイさんは俺の手汗まみれの手をぎゅっと握る。
「今年もよろしくね、マシロくん」
「は……はひ……」
どうやら意味深なアオイさんに振り回される日々が今年も続くらしい。
あーもう、めっっっ……ちゃくちゃ暑い。
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