第4話

朝の通学路は、冷戦状態にあった。

 俺、天堂湊を挟んで、右側に妹(従妹)の深月。左側に幼馴染の小日向ヒナ。

 二人の美少女に挟まれるという、傍から見ればハーレム状態だが、実際は地獄の釜の蓋が開いている状態だ。


「……ねえ、深月。ちょっと湊にくっつきすぎじゃない?」


 ヒナがジト目で指摘する。

 深月は俺の腕を抱きしめたまま、涼しい顔で答えた。


「あら、そうかしら? 愛し合う兄妹なら普通でしょ?」

「普通じゃないよ。昨日までは、外では他人行儀にしてたじゃん。……何かあったの?」


 ヒナの勘が鋭い。

 深月はニコリと笑い、俺の耳元で囁くように言った。


「ふふっ。……『壁』がなくなったから、解放されたのよ」

「壁?」

「ヒナちゃんには関係ない話よ。ね、湊くん?」


 深月が俺の二の腕に胸を押し付けてくる。

 俺は冷や汗を流しながら、必死に話題を逸らそうとした。


「あ、あー! そういえば今日の数学のテスト、範囲どこだっけなー!」

「湊、誤魔化さないでよ。……あんたたち、まさか本当に『一線』越えたんじゃないでしょうね?」


 ヒナの目が笑っていない。

 彼女は昔から俺たちの関係に過敏だった。もしかしたら、深月が俺に抱いている感情が「妹」としてのそれだけではないことに、薄々気づいていたのかもしれない。


「越えてない! 断じて越えてないぞ!」(※物理的には)

「そう。ならいいけど……。でも、今日から私も監視させてもらうからね」


 ヒナが宣言し、俺の左腕をガシッと掴んだ。


「え?」

「深月だけズルい。私もくっつく」

「はあ!?」

「あら、ヒナちゃん。湊くんは私のものよ?」

「あんたのお兄ちゃんでしょ? 所有物じゃないじゃん。幼馴染の特権を行使しますーだ」


 右から深月、左からヒナ。

 左右から引っ張られ、俺は囚われた宇宙人のような格好で校門をくぐることになった。

 当然、全校生徒の視線が突き刺さる。


「おい見ろよ、天堂先輩だ……」

「会長だけじゃなくて、小日向先輩まで侍らせてるぞ……」

「なんだあの空間? ラブコメの主人公かよ。爆発しろ」


 朝から胃が痛い。

 だが、本当の地獄は昼休みに待っていた。


          ◇


 昼休み。学食「カグラ・カフェ」。

 俺はまたしても、深月に連行されて特等席に座らされていた。

 だが、今日は対面にもう一人、ヒナが座っている。


「はい、湊くん! お弁当作ったよ! 今日は唐揚げだよ!」


 深月が勝ち誇った顔で、三段重のような巨大な弁当箱を展開した。

 重い。物理的にも愛情的にも重い。


「あーん♡」

「……いただきます」


 俺が唐揚げを食べようとした瞬間。

 ダンッ!

 と、隣でタッパーが叩きつけられる音がした。


「……湊。私も作ってきた」


 ヒナだ。

 彼女は不貞腐れた顔で、少し焦げた卵焼きとウインナーが詰まったタッパーを差し出した。


「え、ヒナも?」

「深月が作るって言ってたから……対抗したの。食べてよ」

「いや、俺は深月のが……」

「食べて」


 ヒナの目が「食べなきゃ殺す」と語っている。

 俺は震える手で、ヒナの卵焼きも口に入れた。

 しょっぱい。涙の味がしそうだ。


「どう? どっちが美味しい?」

「湊くん、もちろん私のほうが美味しいよね?」


 二人が俺の顔を覗き込んでくる。

 食堂中の視線が集まる中、俺は「どっちも美味い」という100点満点かつ0点の回答を絞り出し、逃げるように水を飲んだ。


 その頃。

 裏掲示板は、新たな燃料投下により業火に包まれていた。


          ◇


**【悲報】幼馴染・小日向ヒナ参戦。学食が第二次世界大戦へ**


1 **:名無しの生徒**

おい、今の学食見たか?

会長と湊先輩のイチャラブ空間に、2年B組の小日向さんが突撃したぞ。


2 **:名無しの生徒**

見た。

W(ダブル)手作り弁当とか、どこのラノベだよ。

湊先輩、胃袋掴まれすぎて内臓破裂すんじゃね?


3 **:名無しの生徒**

状況整理求む。

昨日:会長が兄貴へのデレを解禁(近親疑惑)

今日:幼馴染が対抗意識を燃やして参戦(修羅場)

これ、どういうこと?


4 **:名無しの生徒**

>>3

単純に考えれば「妹VS幼馴染」の三角関係だが……

相手が実の妹ってのがネックなんだよな。

小日向さんからすれば「実の妹相手に何ムキになってんの?」って話だし、会長からすれば「兄離れできてない痛い妹」になるはずなんだが。


5 **:名無しの生徒**

そこなんだよ!

二人の空気が「恋敵」を見る目なんだよ!

妹が兄貴に向ける目じゃないし、幼馴染がただの友人に嫉妬するレベルでもない。

ガチの「メス」の顔してるんだよ二人とも!


6 **:名無しの生徒**

【朗報】湊先輩、両方のお弁当を完食させられる。

カロリー過多で死ぬぞあれ。


7 **:名無しの生徒**

てか、昨日の「実は従兄妹説」はどうなったんだ?

もしそれが本当なら、この修羅場も説明がつくんだけど。


8 **:名無しの生徒**

>>7

それな。

「従兄妹」だと仮定すると、全ての辻褄が合う。

会長は「結婚できる」からデレ解禁した。

小日向さんは「結婚できる」と知ったから、焦って参戦した。

……これ、確定演出じゃね?


9 **:名無しの生徒**

うわあああああああ!!!

マジかよ! 小日向さんも知ってんのかよ!

てことは湊先輩、ガチでハーレム主人公ルート入ったってことか!?


10 **:名無しの生徒**

待て。俺はまだ信じないぞ。

会長は「氷の聖女」だぞ? あんな完璧超人が、ただの兄貴(従兄)に欲情するわけがない。

きっと何かのドッキリだ。カメラを探せ。


11 **:名無しの生徒**

>>10

現実を見ろ。

今、会長が先輩の口についたケチャップを舐め取ったぞ。

ドッキリでそこまでするか?

あれは「マーキング」だ。野生動物が自分の縄張りを主張するやつだ。


12 **:名無しの生徒**

ヒエッ……。

聖女様の独占欲、重すぎ……。

小日向さん、よくあの中に割って入れたな。勇者かよ。


13 **:名無しの生徒**

速報。

小日向さんが去り際に一言。

「放課後、話があるから屋上に来て」

これ、告白フラグじゃね?


14 **:名無しの生徒**

キタァァァァァァァッ!!

王道イベント「屋上呼び出し」!!

会長はどうする? 阻止するか?


15 **:名無しの生徒**

会長、笑顔だけど目が笑ってない。

「へえ、奇遇ね。私も湊くんに『大事な話』があるの。一緒に聞いてもいいかしら?」

戦争だ。これより第三次大戦が勃発する。


16 **:名無しの生徒**

湊先輩の安否が気遣われる。

誰かAED持って待機しとけ。


17 **:名無しの生徒**

俺たちの青春は、彼への嫉妬の炎で焼き尽くされた。

もう勉強とかどうでもいい。この結末を見届けるまでは卒業できない。


          ◇


 放課後。

 俺は逃げたかった。全力で逃げ出したかった。

 だが、教室の出口は深月に封鎖され、窓の外(廊下)にはヒナが待機しているという鉄壁の布陣。


「さあ、湊くん。屋上に行きましょうか?」


 深月がニコニコしながら、俺の腕をロックする。


「深月……お前、俺を処刑台に連れて行く気か?」

「まさか。ヒナちゃんとお話するだけだよ。……湊くんが『誰のもの』か、はっきりさせるためにね」


 怖い。

 昨日の「従兄妹バレ」から、物語のジャンルが「ほのぼの家族もの」から「ヤンデレサスペンス」に変わってしまった気がする。


 俺たちは重い足取りで屋上へと向かった。

 そこで待っているのは、幼馴染からの愛の告白か、それとも妹(従妹)からの宣戦布告か。

 どちらに転んでも、俺のライフポイントはゼロになりそうだった。


 ――次回、屋上での直接対決。

 ヒナの口から、衝撃の事実が語られる(かもしれない)。

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2026年1月2日 21:00
2026年1月3日 21:00
2026年1月4日 21:00

「お兄ちゃん、結婚しよ?」――長年、家族として溺愛してきた妹(校内一の美少女)が、実は従妹だと判明した瞬間、限界突破して襲いかかってくる件について kuni @trainweek005050

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