朝4時、人生は酔っていないのに回り始める(寝不足のボーイと限界テンションのキャバ嬢が、太陽の下で成功とかいう概念に殴られ続ける話)

イミハ

第1話 朝4時に人生をやり直す奴は、大体まだ酔ってる

朝4時。

 世間的には「まだ夜」なのか「もう朝」なのか議論が割れそうな時間帯だが、少なくとも俺の人生的には完全に詰み明け前の時間だった。

 眠い。

 寒い。

 そして何より、ここがどこなのか未だに理解できていない。

 目の前にあるのは、ネオンが半分死んでる看板。

 《CLUB SUNRISE》

 ――朝キャバ・昼キャバ。

 いや、朝キャバってなんだよ。

 太陽に喧嘩売ってんのか?

「……マジでここで合ってんのか?」

 そう呟いた俺、**黒崎 恒一(くろさき こういち)・28歳・元フリーター・現職無職(仮)**は、手に持ったスマホの求人画面を三度見した。

 《未経験歓迎!朝4時〜OK!人生立て直したい人歓迎!》

 歓迎されすぎて逆に怖い。

 だが他に行く場所はない。

 昨日まで住んでた安アパートは家賃滞納で追い出され、財布の中身は小銭とプライドだけ(どっちも軽い)。

 俺は意を決してドアを開けた。

 中は意外と明るかった。

 というか、無駄に清潔だった。

 キャバクラってもっとこう、夜の欲望が染み付いた感じだと思ってたんだが、ここはどちらかと言うと深夜のファミレスのテンションに近い。

「おはよーございまーす」

 聞こえてきた声に、俺は反射的に姿勢を正した。

 そこにいたのは――

 朝なのに完成されすぎてる女だった。

 髪はきっちり巻かれ、メイクは完璧。

 なのに目元だけ、少し眠そう。

 彼女の名は

 一ノ瀬 ひかり(いちのせ ひかり)・24歳・朝昼キャバ歴3年。

 後に俺の人生を根こそぎかき乱す女である。

「新人さん?ボーイ?」

「あ、はい……たぶん……」

「たぶんって何(笑)

 まあいいや、朝キャバ初?」

「そもそもキャバクラ自体が初です……」

 そう言った瞬間、彼女はニヤッと笑った。

「ふーん。

 じゃあ今日、人生で一番“人間観”変わる日になるよ」

 嫌な予感しかしない。

 一方その頃――

 開店準備中の控室で、ひかりは内心こう思っていた。

(あー……また来たわ……

 人生詰み顔ボーイ)

 別に見下してるわけじゃない。

 むしろ、過去の自分と同じ顔をしているだけだ。

 ひかりは元々、夜職に夢なんてなかった。

 大学中退、昼の仕事は全部続かず、気づいたら朝キャバに流れ着いていた。

 最初は「朝の方が楽そう」なんて軽い理由だった。

 でも違った。

 朝キャバは、

 ✔ 酔ってない客

 ✔ 仕事前のテンション

 ✔ 現実逃避しない人間

 つまり、誤魔化しが効かない世界だった。

(ここで結果出せなきゃ、どこ行っても無理)

 それを一番分かってるのが、ひかり自身だった。

 だからこそ――

(このボーイ、

 たぶんすぐ辞めるか、

 化けるか、どっちかだな)

 開店5分前。

 店長の声が飛ぶ。

「はいー!朝キャバスタート!

 今日も“爽やかに人生狂わせていこー!”」

 狂わせる前提なの怖い。

 俺は震える手で名札をつけた。

 《黒崎》

 その瞬間、ひかりが俺の横を通りながら言った。

「黒崎くん。

 朝キャバなめてると、普通に心折れるからね」

「……じゃあ、なめない方がいいですか」

「ううん」

 彼女は、満面の笑みでこう言った。

「折れた方が、伸びる人もいる」

 朝4時。

 俺の人生は、

 完全によく分からない方向へ走り出した。

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次の更新予定

2026年1月5日 20:00
2026年1月12日 20:00

朝4時、人生は酔っていないのに回り始める(寝不足のボーイと限界テンションのキャバ嬢が、太陽の下で成功とかいう概念に殴られ続ける話) イミハ @imia3341

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