第2話 Vtuberになってやろうじゃないの
数日後、セレノアは王都から離れたディアルカ領にある公爵家の屋敷に到着するなり、使用人たちの怯えた視線を無視して(正確には、合わせる顔がなくて逃げるように)、自室に閉じこもった。
「お嬢様、お食事をお持ちいたしました……」
侍女のティアが、お盆をカタカタ震わせながら部屋の前に立つ気配を感じる。
「そこに置きなさい」
セレノアの冷たい物言いにティアがびくっとしたのか、食器がぶつかる音が聞こえた。
「では……あとで片付けに参ります」
そう言って彼女が退散していくのがわかる。
(ごめんね、ティア……『セレノア』が本当にごめん! 扉を開けたら私の威圧感であなたが失神しそうだから、開けられないのよ!)
セレノアは心の中で全力の土下座をしつつ、そっと扉を開けてパンやサラダが乗ったお盆を手にし、再び部屋の中に戻ってきた。
いったん、食事は机の上に置いておき、クローゼットの奥から埃を被った箱を引き摺り出してくる。
蓋を開けると、かつてのセレノアが集めていた魔導具が入っていた。新商品が出る度に買いまくった挙句、手に入ったら満足して放置するタイプだったので、新品同様だ。
「雑に扱ってごめんね、『ミロワール・ヴィヴィアン』。今日からよろしく、私の救世主!」
それは、ただの黒いガラスがはめ込まれた板に見えるが、実はとんでもないオーバーテクノロジーが詰め込まれた逸品である。
「あれ、画面が光らない……壊れてる?」
これは現代でいうところのタブレット機器のようなものだ。ゲーム内ではキャラクター同士が連絡を取り合ったり、イベント情報をチェックしたり、機能は多岐にわたる。
動力源が魔力なので、セレノアも使えるはずだが、途中で離脱するキャラクターなので、手に入れても『使わない設定』になっていたのだろう。
なんとしてでも起動させないと、今回の計画はとん挫する。
(まずは魔力回路をチェック……。うわっ、
前世でシステムエンジニアもどきの仕事をしていたセレノアは、慣れた手つきで魔石を弄り、タブレットのシステムを再構築していく。
パンを頬張りながら奮闘すること小一時間、ようやく電源が入るようになった。
「じゃあ、早速アバターを作っていくわよ」
セレノアは、赤毛をリボンで一つにくくり、金の瞳を隠すように薄いシルクの面紗を身につける。
「私のこの『いかにも性格悪そうなつり目』を、『超絶癒やし系のタレ目』に変換! 次に音声。 嫌味ったらしい高音を、耳元で囁かれたら溶けちゃいそうなウィスパーボイスに変換……っと!」
作業に没頭すること、さらに数時間。外はすっかり深夜になっていた。
ピロリン♪
「えっ、かわいい。なにこれ天才? はい優勝!」
画面に現れたのは、銀の星々を模した髪飾りを散らした群青の長い髪に、雪のように白い肌をしている女の子だ。淡い紫色の瞳はおっとりとした眼差しで、猫目のセレノアとは正反対。
衣装は魔女っぽいローブとドレスを混ぜたもの。動くたびに星屑のエフェクトがキラキラと周囲にきらめく仕様だ。
画面内で動くかわいらしいアバターが、セレノアの動きに合わせて、笑顔になったり、困った顔をしたりする。
(名前は……そうね。シエルノワール。うんうん、 完璧! これなら王国の誰も、中身が『婚約破棄された性悪令嬢』だなんて思わないはず!)
ここまでは順調。
「はじめまして、こんばんは~」
セレノアが画面に向かってしゃべりかけると、ヘッドホンから聞こえてくる声は、庇護欲をそそるような甘い癒しボイスだった。
(――うわっ、恥ずかしっ! 自分でやってて鳥肌立った。でも、このギャップがあれば絶対大丈夫ね)
セレノアの脳内に、札束……ではなく、黄金に輝く投げ銭の雨が降り注ぐイメージが浮かぶ。
(働くと言っても、誰も評判の悪い私を雇いたいとは思わないでしょう。それならセレノアだと気づかれずに稼ぐしかないのよ)
これがこの世界で受け入れられるかわからないけど、挑戦する価値はある。
「目標は、公爵家を没落させないこと! 万が一身バレして配信停止になっても、余裕で暮らせるくらいのお金を貯めること! オホホホホ……あ、いけない。悪役令嬢笑いが出ちゃった」
いつの間にか深夜になっていたが、静寂の中で、セレノアはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
前世の知識と、今世の魔導具。このハイブリッドな才能で、異世界ナンバーワンVtuberになってやろうじゃないの。
「さあ、
セレノアは、ミロワール・ヴィヴィアンに魔力を送り込んだ。
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