第8話鋼鉄の猟犬 ── 地下水路の攻防

シアンがくれた電子地図が示す「地下水路」は、腐敗した水と錆びた鉄の匂いが充満していた。

かつて帝都の繁栄を支えた大動脈も、今では忘れ去られた闇の迷宮だ。

​「……ハリー、足音が……」

姫が青ざめた顔で背後を振り返る。

暗闇の奥から、カツン、カツン……という、硬質な音が響いてくる。生物の足音ではない。金属がコンクリートを削る音だ。

​「来たか。『黒鉄(クロガネ)』の斥候だ」

侍は姫を背中の後ろに庇い、黄金の太刀の柄に手をかけた。

闇の中に、不気味に赤く光る「目」が二つ、また二つと浮かび上がる。

現れたのは、全身が刃物で構成されたような、狼型の機械獣だった。

​『対象確認。検体7号、および護衛対象。……排除を開始スル』

機械獣が合成音声と共に、バネ仕掛けの身体を圧縮させ、弾丸のように飛びかかってきた。

​「させぬ!」

侍の太刀が一閃する。

暗闇に黄金の軌跡が走り、先頭の機械獣が空中で真っ二つに両断された。断面から火花が散り、水面に沈む。

​だが、敵は一体ではない。

続く二体、三体が、壁を蹴り、天井を走り、あらゆる角度から姫へと牙を剥く。

​「グルルァッ!!」

その時、足元の白い犬が咆哮した。

小さな体から放たれたのは、見えない衝撃波──いや、微弱な**「電磁パルス(EMP)」**だ。

飛びかかろうとした機械獣たちが、一瞬ガクンと動作を停止させ、空中でバランスを崩す。

​「ナイスだ、相棒!」

その隙を、侍は見逃さない。

踏み込みと共に、流れるような連撃を叩き込む。

一の太刀で右の敵を突き刺し、返す刀で左の敵を斬り伏せる。

​数秒の静寂の後、水路には鉄屑と化した残骸だけが転がっていた。

​「……行こう。本隊が来る前に、このエリアを抜ける」

侍は刀についた油を払い、震える姫の肩を抱いた。

「大丈夫だ。どんな地獄の底だろうと、僕が必ず君を光の場所(432地区)へ連れて行く」

​姫は頷き、その手を強く握り返した。

二人の逃避行は、もはや後戻りできない戦いの旅へと変わっていた。

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