第7話出発 ── 医聖の手土産

「……美味かったか?」

空になった皿を見て、シアンがぶっきらぼうに尋ねた。

「はい。生き返りました」

姫が深く頭を下げる。その顔色は、数時間前とは見違えるほど良くなっている。

​「なら、さっさと行け」

シアンが唐突に告げた。

メイが「あなた!」と咎めようとするが、シアンの目は鋭く窓の外──紅灯街のネオンの向こうの闇を見据えていた。

​「風向きが変わった。……鼻の利く『鉄の犬』どもが、こっちに向かってやがる」

シアンは、金剛の放った追っ手の気配を、持ち前の野生の勘で感じ取っていたのだ。

「ここにいたら、俺たちの平和な食卓までメチャクチャにされちまう。迷惑料は高くつくぞ」

​悪態をつきながらも、シアンは棚から小瓶を放り投げた。侍がそれを受け取る。

「痛み止めと、気付け薬だ。……それと、これを持っていけ」

彼が渡したのは、一枚の古い電子チップだった。

​「俺が昔使ってた、地下水路の地図だ。これなら帝国の監視網を抜けられる。……西へ行け。『432地区』にある古い聖域なら、金剛のセンサーも届かないはずだ」

​口では「迷惑だ」と言いながら、逃走ルートまで確保してくれていたのだ。

「……何から何まで、すまない」

侍が礼を言うと、シアンはニヤリと笑った。

​「勘違いするな。俺は『自分の患者』をみすみす殺されるのが癪なだけだ。……おい、侍。その姫さんを泣かせたら、次は俺が針で刺すからな」

​「肝に銘じる」

侍は背中の太刀を担ぎ直し、姫の手を強く握った。

「行こう。私たちの旅は、まだ始まったばかりだ」

​足元で、白い犬が「ワン!」と力強く吠えた。

迫りくる鋼鉄の軍団。それを出し抜くための、夜明け前の逃走劇が始まる。

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