第6話胎動 ── 氷の将軍、金剛
帝都の地下深くに位置する科学局。
無機質な青白い光に満たされたその部屋には、無数のホログラムモニターが浮かび、世界のあらゆるデータを映し出していた。
「……報告します。別府ノ杜(べっぷのもり)に散布したナノウイルス『金剛』の反応が消失。……浄化された模様です」
震える部下の報告に、玉座のような指揮官席に座る男が、ゆっくりと指を動かした。
機甲将軍、金剛(コンゴウ)。
顔の左半分が黒い金属で覆われ、右目だけが冷たい知性を宿して光っている。
「浄化だと? ありえん。あれは致死率100%に調整したはずだ」
金剛の声には感情の起伏がない。まるで機械が合成音声を発しているかのように平坦だ。
「現地の監視ドローンからの映像です。……確認されたのは、逃亡中の『侍』と、謎の医師による接触」
モニターに、シアンが針を打つ映像と、その傍らで姫の手を握る侍の姿が映し出された。
金剛の義眼(カメラ)が赤く明滅し、高速でデータを解析する。
「非論理的だ。旧式の医療技術と、非科学的な精神論(愛)で、私の最高傑作を無力化したというのか?」
ガシャン、と金属音が響く。金剛がアームレストを握りつぶした音だ。
だが彼は怒鳴り散らしたりはしない。ただ、温度のない声で淡々と告げた。
「検体(サンプル)7号……あの女の体内には、毒を中和する未知の抗体が生まれた可能性がある。……貴重だ」
「は、はい。では、丁重に保護を……」
「馬鹿か、貴様は」
金剛は部下を一瞥もしなかった。
「**『回収』**だ。生きたまま解剖してデータを取る必要がある。……手足の一本や二本、もげていても構わん。脳と心臓の機能さえ残っていれば、研究材料としては十分だ」
部下たちは息を呑んだが、逆らえる者はいない。
「機甲兵団『黒鉄(クロガネ)』を出撃させろ。邪魔をする侍は……殺せ。感情というバグに侵された旧式に、用はない」
冷たい指令が下された。
温かいスープの香りが残るシアンの診療所に、鋼鉄の悪意が静かに、しかし確実に迫ろうとしていた。
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