第3話祈りの残響 ── 紅灯街の医聖

​侍が抱き留めた姫の腕は、冬の枯れ枝のように細く、冷たかった。

金剛が与えた毒薬は、彼女の自由を奪うだけでなく、生命力そのものを蝕んでいた。正規の術師たちが「回復不能」と匙を投げた絶望が、彼女の体を包み込んでいる。

​だが、二人の掌が重なった瞬間、侍の脳裏に「千年前の情景」が激流となって流れ込んだ。

​病床で幾度となく意識を失い、死の淵を彷徨いながらも、朝が来るたびに「今日も目が覚めた」と静かに微笑む少女の姿。

周囲が「あの人はもう死んだ」と囁くほどの惨状にあっても、彼女だけは、明日を信じることをやめなかった。

『明日、目が覚めたら、みんなと同じ元気な体になっていますように……』

​その祈りは、時空を超え、形を変えて、かつての侍を何度も救ってきた「女神の光」そのものだった。

「……君だったのか。出会うまで生きていてくれたのか」

侍の目から涙がこぼれ、その熱い雫が姫の頬に触れた時、凍りついた彼女の瞳に、わずかな光が宿った。

​「感動の再会中に悪いが……そのままだと、その姫さんの命の火はあと数分で消えるぜ」

​霧の向こうから、不敵な声と、酒の匂い、そして微かな「煮物の匂い」が漂ってきた。

現れたのは、無精髭を蓄え、だらしない格好をした男。だがその瞳だけは、どんな名医よりも鋭く、命の本質を見抜いていた。

​「……誰だ」

「紅灯街の掃き溜め医者、シアンだ。上の連中(正規の術師)は『出産……いや、蘇生は不可能』と抜かしたらしいが、俺の辞書にその言葉はない。」

​シアンは腰のポーチから、古びた、しかし手入れの行き届いた数本の「銀針」を取り出した。

「やってみな分からん、だろ? さっさと済ませるぞ。妻の飯が冷める前に、俺は帰らなきゃならんのでな」

​シアンが針を構えた瞬間、停滞していた空気が一変した。

科学を超えた「奇跡の治療」が、今、始まろうとしていた。

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