第6話 選ばれし石

魔石の由来と、その凄まじい破壊の歴史を聞き終え、

エリックはしばらく言葉を失っていた。


だが――

決意が揺らぐことはなかった。


「では……その魔石を、私にお譲りいただきたい」

エリックは、はっきりと告げた。


「私が、再び人間どもを粛清いたします」

ミレイアは、即答しなかった。

「……本当に、それでいいの?」

静かな問いだった。


「アグニルは、人間を粛清したあと、長いあいだ、罪の意識に苛まれていたわ」

ミレイアは、ルーメンの背を撫でながら続ける。


「何千という命を奪った。その重さは、神であっても耐えきれなかった」


ルーメンが膝から降り、

ふらりとエリックの足元へ寄ってきた。

「……こんな話をしているというのに、この子は、ずいぶん気楽なものですな」

エリックは、ルーメンを抱き上げた。


不思議と、猫は抵抗しない。

「懐かれてしまったようね」

 ミレイアが微笑む。


「ミレイア殿」

エリックは、ルーメンを胸に抱いたまま言った。

「私は、後悔などいたしません。

 人間どもに対する憎しみは……もはや、拭いようがない」


「……それでも?」

「それでもです」


ミレイアは、しばらく黙っていたが、

やがて、小さく頷いた。

「分かったわ。

 ――ついてきなさい」


城の奥、

ひときわ静かな部屋に、大きな水瓶が置かれていた。

「魔石は、この中よ」


覗き込むと、

赤、青、黄、緑、紫、橙、白、黒――

八つの石が、水の底に沈んでいる。


「魔石は、魔粒子を込めて作るもの。

 でも、十分な量を込めるのは、容易ではないの」


ミレイアは語る。

「アグニルは、幾度も失敗を重ね、

 ようやく“ある一定以上”の魔粒子を宿した石を作り出した」


「……ということは」

「ええ。ここには、失敗作が七つ、成功作が一つだけ入っている」


「なるほど……」

エリックは、水面を見つめた。

「成功した魔石を選び、それをカルネス火山へ投じれば……

 ノルマニアは滅ぶ、というわけですな」

「そうよ」


ミレイアは、一枚の石板を差し出した。

「これは、アグニルが残した記録。――この謎を解きなさい」



《アグニルの記録》

赤は、これまでで最も多くの魔粒子を含んでいる。

来年こそ、完全な魔石を作りたい。


白、緑、紫は、

以前より多くの魔粒子を込めようとした。

だが、白だけは叶わなかった。


赤と緑の間には、一つの石。



「……なるほど」

エリックは、石板から目を離さずに言った。


「ところで、ミレイア様は

 どれが成功作か、ご存じなのですかな?」

「ええ。でも――言えない」

ミレイアは、静かに首を振った。


「国を滅ぼすほどの力を持つ魔石は、“選べた者”にしか渡してはならない」

「……アグニルの遺言、というわけですな」

「そう」

エリックは、ゆっくりと息を吐いた。


「分かりました。――自分で解きましょう」


水瓶の中で、 八つの石が、わずかに揺れている。


(“適量”ではない……

 “ある一定以上”の魔粒子……)

 エリックの思考が、静かに加速していった。

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