第4話 邪心の向かう先
エリックは馬にまたがり、南へと向かった。
――ノルマニアより、はるか南。
――そこには、邪心を抱く者のみが辿り着ける城がある。
(……今の俺に、邪心がないとでも思うか)
乾いた笑いが、喉の奥で漏れる。
――城に棲むは、破壊の神。
――その手に、魔石を持つ。
――魔石をカルネス火山の火口へ投じれば、
国は一夜にして、溶岩に呑まれる。
(ノルマニアを……
すべて、覆い尽くしてくれるというのか)
エリックは復讐という名の衝動を胸に、
馬を走らせ続けた。
水も口にせず、食も取らず、
三日三晩――ただ南へ。
がて、湖の畔に辿り着いた。
馬は水を飲み、草を食む。
その姿を見て、エリックは鼻で笑った。
「お前はいいな……
水と草があれば、それで生きていける」
馬は何も答えない。
ただ、どこか寂しげな目で主を見つめている。
「人は、そうはいかんのだ。
飲み、食らい、それでも満たされぬ……」
エリックは呟いた。
(やはり、破壊の神の城など――ただの戯言か)
胸の奥で、何かが切れる音がした。
「……もう、いい」
彼は短刀を抜き、首元へと当てた。
「革命軍の誇りが、完全に消える前に……ここで終わらせてやる」
その瞬間だった。
「ヒィン――ッ!」
馬が、激しく嘶いた。
「どうした……?やめろ、とでも言うのか?」
馬は首を振り、
ある一点を見つめている。
エリックは、そちらへ目を向けた。
――あれは。
遠く、霧の向こうに、
城の影が浮かんでいた。
「……あれか」
エリックは再び馬にまたがり、その影へ向かって走った。
城門は、驚くほどあっさりと開いた。
内部は冷えきっており、
壁には、人々が争う絵、
炎に呑まれる世界の絵が描かれている。
「……趣味の悪い城だ」
そのとき、背後に気配を感じた。
「何者だ!」
エリックは剣を抜き、振り返る。
そこにいたのは――
剣を向けるには、あまりに不釣り合いな存在だった。
「随分と物騒ね」
静かな声。
美しい女が、そこに立っていた。
エリックは、刃を伏せ、
剣を鞘へと帰した。
「私の名は、ミレイア。
破壊の神として、この世に知られているわ」
拍子抜けするほど、穏やかな声音だった。
その足元に、一匹の灰色のネコが寄ってくる。
「この子はルーメン。独りだと、寂しくてね」
ミレイアは、ネコを抱き上げた。
「……あなたが、破壊の神?」
「そうよ。かつては、夫――アグニルがその座にあったけれど」
彼女の表情が、わずかに陰る。
「神にも寿命はあるわ。彼が逝ったあと、私が引き継いだの」
エリックは、言葉を失った。
「あなたは、エリック。革命軍の英雄……
けれど今は、すべてを失った男」
「……なぜ、それを」
「この城はね、邪心を抱く者しか辿り着けない」
ミレイアは、ルーメンの背を撫でながら続けた。
「あなたの心が、そう教えてくれたのよ」
「……ならば話は早い」
エリックは、一歩踏み出した。
「魔石を、私に譲っていただきたい」
そのとき、 ルーメンが小さく鳴いた。
「お腹が空いたのね」
ミレイアは微笑み、エリックを見た。
「あなたも、食べなさい。
三日も、何も口にしていないでしょう?」
そして、静かに言う。
「魔石の話は……そのあとで」
エリックの胸にあった邪心は、
その言葉に、わずかに足を止めた。
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