第2章:夏の鼓動、ナツミとBの熱狂

五月が過ぎ、六月の湿り気を吹き飛ばすような日差しが差し込み始めた頃。僕たちの日常は、一本の電話、いや、一本の「スティック」によって粉砕された 。

「おっはよー、ハルタ! 生きてる!?」

大学のラウンジで、パニックになっていた僕の背中に衝撃が走った 。犯人は、僕の幼馴染で、この世で最も「静寂」という言葉から遠い女の子、ナツミちゃんだ 。

「ナ、ナツミちゃん……。叩くならドラムにしてよ」 「あはは、ごめんごめん! でも聞いたよ、リンコちゃんから。また本格的に音楽始めたんだって? 高校の時に買ったあのギターでさ!」

ナツミちゃんは僕のギターケースを勝手に開け、高校生の頃からの相棒であるシーと対面した 。

『おい。なんだこの女は。高校の時から一ミリも変わってねえな。鼓膜が破れるような声で喋るな』

シーが不機嫌そうに振動する 。ナツミちゃんはそんなシーのボディを力強く叩きながら笑った 。

「よし決めた! ハルタ、バンドやろう! アキがいなくなってから、私のドラムセット、**ビー**もずっと暴れたがってたんだから!」

ナツミちゃんのドラム、「ビー」。それは、彼女の底なしのエネルギーを受け止めるために生まれた、ひたすら熱い楽器だ 。

ナツミちゃんは僕の手を引き、強引にスタジオへと連れて行った 。そこでは、リンコちゃんがノートPCの「エー」を起動させて待っていた 。

「ハルタくん。エーも『ナツミのビー)が必要だ』って言ってるから」

ナツミちゃんがドラムセットの前に座る 。

スティックを握った彼女の顔から「遊び」が消え、カウントを叫んだ 。

「ワン、ツー、スリー、ゴー!」

地響きのようなバスドラムが鳴り響き、ビーの熱い叫びが空気を変えた 。

『シー……チッ。相変わらずうるせえ女たちだ。だが……このリズム、悪くない。ハルタ、この波に乗り遅れるな!』

ナツミちゃんの叩き出す暴力的なビートが、僕の中の「ズレ」を無理やり矯正していく 。それは、僕が他人と「同じ時間」を共有できる唯一の瞬間だっ

 演奏が終わった後、ナツミちゃんはスティックを回しながら呟いた 。 「……アキにも、聴かせてあげたいな。この音」 その言葉は、スタジオの熱気を、切ない夕暮れの色に変えてしまった 。

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